プログラム:円板の撓み曲線

  1.  プログラムがなぜ必要になったか?
     光学装置関連の計算になぜ円板の撓みの計算がでてくるか不思議に思う方が多いと思います。
     かつて、半導体のパターンを形成するための感光工程には、図A1に示す原理の密着露光装置 (アライナー)が使われていました。
     半導体ウェーハの表面に感光材料であるレジストを塗布し、パターンが形成されているマスクに N2ガスの圧力で密着させ、紫外線をあてることによりパターンを転写します。
     非常に単純な原理でかなり微細なパターンまで形成することができます。しかしこの様な単純な 構成で感光を行うとマスクが変形し、この変形によってパターン転写位置のピッチ誤差が発生し、合わせ 精度不良が多くなります。
     変形によりどの程度のピッチ誤差が発生するのか?検討する必要があります。そして、精密に ピッチ誤差をコントロールする方法を検討しなければなりません。

  2.  等分布荷重を受ける円板の撓み
     図A2に等分布荷重を受ける周辺固定円板の撓みのモデル図を示します。このモデルは微分方程式 を代数的に解くことができます。
    円板外側半径:R
    円板板厚さ:h
    等分布荷重圧力:W
    円板材料の縦弾性係数:E
    円板材料のポアソン比
    円板半径の任意の位置:r
    r位置での撓み量
     としたとき下記式で撓み量が求まります。
       δ={3(1-ν2)W(r2-2R2)r2}/(16Eh3) ---(A1式)
     またパターン転写位置のピッチ誤差(Pe)は(A1式) をrで微分し、h/2を掛けると求まります。 ピッチ誤差(Pe)は下記式で求まります。
       Pe={3(1-ν2)W(r2-R2)r}/(8Eh2) ---(A2式)
     (A1式)(A2式)はさほど計算の難しいしい式ではありません。計算するためには、材料の縦弾性係数と ポアソン比を知る必要がありますが機械工学便覧等にのっています。

     ガラスの円板を仮定して、下記条件で計算してみます。
    円板外側半径:R=75 mm
    円板板厚さ:h=1.5 mm
    等分布荷重圧力:W=0.001 kgf/mm2
    円板材料の縦弾性係数:E=7280 Kg/mm2
    円板材料のポアソン比=0.22


     計算結果を図A3に示します。
     等分布荷重0.001 kgf/mm2は0.1気圧に相当し、さほど高い圧力ではありません。 計算結果をみると、この条件でマスクは約230μm撓み、約3.5μmのピッチ誤差が発生することがわかります。 マスクの変形に伴うピッチ誤差は無視できない量であることがわかります。

     等分布荷重を受けるマスク円板の変形計算においては、プログラムを使用する必要はありません。 (A1式)を用いるのが正確です。プログラムはリング円板を前提としています。計算の都合上、内側半径を 0にするとエラーが発生します。
     VBAソフト「円板.xls」をダブルクリックして起動した後、 シート「ガラスの円板計算条件」の条件表の内容をシート「IN_FM」にコピーします。
    次にシート「操作」の「計算実行」ボタンを押します。

     プログラムで計算した結果は、円板の中心近傍の応力値で誤差を生じますが、撓み量、ピッチ誤差 とも(A1式) (A2式)で計算した値に近いものとなります。円板の中心近傍の誤差は内側半径が小さい場合に両端固定支持 の条件が成立しないことに起因します。
     
  3.  マスクの変形を防止する密着方法
     密着機構の実例を図A4に示します。 実際の密着露光装置においては、半導体ウェーハ上のパターンとマスクパターンを正確に位置合わせ して露光することが必要です。
     このため、マククとウェーハの平行を正確に調整する機構を備えています。そしてマククとウェーハの 間隔を20μm程度保った状態で、ウェーハ上のパターンとマスクパターンを正確に位置合わせします。 位置合わせ完了後にウェーハをマスクに接触させ密着します。
     ここで、ウェーハを上昇させる際にXY方向に位置ズレが発生すると合わせ精度が劣化します。 従って、Z方向移動のガイドは精密な機構を採用する必要があります。
     精密Z方向移動機構のガイドとしては弾性平行円板ガイドは優れた性能を持っています。 弾性平行円板ガイドを設計するにあたっては、撓み量、応力等の計算が不可欠となります。 弾性平行円板バネの疲労破壊許容応力を超えた応力を与えると機構は使用中に疲労破壊する危険性が高まります。
     プログラム「円板.xls」はこの弾性平行円板ガイドを設計するにあたって有効な計算プログラムです。
     
     図A4に示す機構において、密着はウェーハ近傍を真空で負圧にし、ウェーハ下面からは正圧のN2 ガスを供給します。弾性平行円板ガイド下面の空気室にはエアーを供給します。Z機構のZ位置はZ位置検出器で 検出します。
     この3条件を最適に制御するとマスクの変形は防止されます。

  4.  弾性平行円板ガイドの設計
     VBAソフト「円板.xls」をダブルクリックして起動した後、 シート「弾性平行円板計算条件」の条件表の内容をシート「IN_FM」にコピーします。
    次にシート「操作」の「計算実行」ボタンを押します。
    計算結果の概要が表示されます。

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