7章:波動光学の基礎
- 学習のポイント
実用的な光学計算において、マクスウェルの方程式まで
さかのぼって計算することは希です。
実用的な波動光学の計算は、膨大な量のsin関数の加算演算で構成されます。
また、実用的なレンズ設計は、複雑な3次元幾何計算で構成されます。
しかし、その基礎には、光は電磁波であるという前提があり、基礎方程式は
マクスウェルの方程式ということになります。
しかし、マクスウェルの方程式の展開を理解する必要はありません。
マクスウェルの方程式の展開部分は流し読みしてください。
- マクスウェルの方程式
マクスウェルの方程式は3次元ベクトルの微分方程式で構成されています。
従って、式の意味を理解するには、ベクトル解析の知識が必要です。
このため、式の展開を理解するのは、容易ではありません。
難解な式の展開部分は読み飛ばして、展開結果の式だけを利用するのが
賢いかもしれません。
光は電磁波であり、電場Eと磁場Hの振動として、空間を伝播します。電場と磁場の関係を数式で記述した式がマックスウェルの方程式です。従って、波動光学の基礎式はマックスウェルの方程式から導びかれます。
マクスウェルの方程式は電場E、磁場H、電気変位D、磁気誘導B、電流密度Jの関係をベクトルの方程式で表しております。
ρは電荷密度、σは導電率、εは物質の誘電率、ε0は真空の誘電率で8.854×10-12F・m-1、μは物質の透磁率、μ0は真空の透磁率で1.257 ×10-12H・m-1です。また、Pは原子・分子の電荷分布が変化して生じる分極、Mは磁化分布が変化して生じる磁化です。
- マクスウェルの基本方程式の変形
光の伝播を扱う場合、物質中の電荷密度ρを0として扱います。また、ほとんどの物質で光のような高い周波数に磁化Mは追従できないためM=0とします。この条件でマクスウェルの方程式を変形します。
ベクトル解析の公式
を(7.9)式に適用します。
(7.13)式に(7.8)(7.10)式を代入して整理します。
同様に、磁場Hについても下記の波動方程式を得ます。
波動方程式はEとHのx,y,z方向の各成分で独立に成り立ちますが、それぞれの成分をスカラー関数V(r,t)で代表させて下記のスカラー波動方程式を得ます。
- ヘルムホルツの方程式
(7.16)式はスカラー関数V(r,t)の偏微分方程式の形となっています。この解として下記の調和振動波(7.17)式を代入します。
(7.18)式を偏微分の形式で表すと
となり、 ヘルムホルツの方程式に一致します。このように、調和振動する波を考えると波動方程式を位置rのみに関する微分方程式に帰着できます。この式を解くことで光の空間的な伝播特性を知ることができます。
- 誘電体中での波動方程式
導電率σが0の場合、光の電場よる電流の発生がなく、光のエネルギー搊失が発生しません。このため電磁波のエネルギーは失われず物質は透明となります。ガラス、空気、真空などの場合で、この様な物質を誘電体または絶縁体といいます。
この場合の波動方程式は下記のように単純化できます。
(7.21)式をx方向の1次元の式に置き換えます。
(7.22)式を満足する解として
(7.23)式は図7.1に示すように速度vで波が伝播することを示しています。
真空中の光速度Cはε0を真空中の誘電率として
誘電体の屈折率nは
誘電体中の波数kは(7.19) 式のσ=0として
の関係が成立します。
- 導体中での波動方程式
ヘルムホルツの方程式(7.18) (7.19)式をx方向の1次元の式に置き換えます。
(15.28)式を満足する解として
を得ます。ここで導体中ではσ≠0であり波数kは複素数となります。
(15.30)式を(15.29)式に代入します。
波数kの虚数部kiは減衰項として作用することがわかります。
同様に導体中の屈折率も真空中の波長をλ0として下記のように定義できます。
- 何を理解すべきか?
真空中の波長をλ0、複素屈折率をn、位置をxとして、下記の波動関数U(x)
はマックスウェルの方程式を満足します。
複素屈折率nは物質に依存する定数であり、実数部は物質中の波長の係数です。
虚数部は光吸収の係数です。
(7.33)式は複素関数であり、振動を表す式となっていることを理解すべきです。
(7.33)式は時間(t)の項目が無く、位置(x)のみの関数となっていますが、空間の
波動分布を扱うにはこれで十分です。
波動光学の多くの計算は(7.33)式を使うことになります。
8章:屈折率の波長特性に行く。
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