14章:光学ガラスの選定
作成2013.06.15
任意の波長における光学ガラスの屈折率
任意の波長における光学ガラスの屈折率は関数近似式を用いて計算します。一例としてオハラ光学の関数近似式は
となります。波長λの単位はμmを使用します。
なぜ?このような形の近似式を用いるのか?これは、光の不思議と応用 8章:屈折率の波長特性
8章:屈折率の波長特性 に行く。
を参照願います。8章:屈折率の波長特性(8.11)式の粘性係数γ=0とした場合の関数形に一致することがわかります。
オハラ光学ガラスの定数表は下記を参照願います。
「オハラ光学ガラスの定数表」 にいく。
光学ガラスの種類は119種類もあることがわかります。どのような基準で光学ガラスを選定するか?大変難しい課題です。
光学ガラス選定方法の検討
光学ガラスの種類は119種類もあり、この中から4種類を選択して組合せた場合、組合せの数Nは
N=119×118×117×116=190メガ回
と膨大な数となります。個々の組合せに対して、3次元光線追跡で最適化検討を実施することはとてもできそうもありません。
光学ガラスの組合せ検討においては、簡易的な近軸理論を用いて検討せざる得ないと思います。
屈折率n(λ)、曲率半径Rの平凸レンズのパワーψは
となります。波長λiにおける複数レンズのパワーψiは
(14.3)式を以下のように変形します。
目標のパワーをψ0としたとき誤差関数Eを以下のように定義します。
ここでΔφ1、Δφ2、…、Δφmだけ変化させたとき
となります。(14.7)式をφ1、φ2、…、φmで偏微分した値がゼロとなる条件式を作成すると
(14.8)式はm元の連立1次方程式であり、これからΔφ1、Δφ2、…、Δφmの値を求めることができます。
φ1、φ2、…、φmの初期値は不明ですが、通常初期値をゼロとしてΔφ1、Δφ2、…、Δφmの値を求めφ1、φ2、…、φmの値を順次補正することにより、φ1、φ2、…、φmの値は最適値に収束します。
光学ガラス組合せ最適化計算C#、WPFソフト
光学ガラス組合せ最適化計算にC#、WPFアプリケーションを適用してみました。
完成ファイルは以下からダウンロードできます。
ダウンロード後は解凍してから使用してください。
[光学ガラス組合せ最適化計算C#、WPFソフト]をダウンロード する。
解凍すると「Glass」フォルダーがあります。
フォルダー内の「Glass.sln」をダブルクリックすると「Express 2012 for Windows Desktop」が起動して、プログラムの修正・デバッグが可能です。
「実行ファイル」フォルダー内の「Glass.exe」をダブルクリックすると実行プログラムが起動して、光学ガラス組合せ最適化計算が可能となります。
フォルダー内には、操作説明用データファイル
「光学ガラス2種.txt」
「光学ガラス3種.txt」
「光学ガラス4種.txt」
「標準アクロマート.txt」
があります。
操作例1
「光学ガラス2種.txt」を使用します。ガラスNo6はS-BSL 7でBK7に相当します。ガラスNo52はS-TIM22でSF2に相当します。
(1)「Glass.exe」をダブルクリックします。
(2)メニューの「開く」を選択します。
(3)「光学ガラス2種.txt」を開きます。
(4)操作の「ガラス固定計算」を選択します。
(5)計算結果数表が表示されます。
(6)メニューの「保存」を選択選択すると計算結果数表をタブ区切テキスト形式で保存できます。
(7)「次頁」ボタンを押すとフォーカス誤差グラフが表示されます。
以下にグラフを示します。(図14-1)
・図からフォーカス変化幅が約34.5μm発生することがわかります。
(8)「閉じる」ボタンを押してグラフウインドウを閉じます。
このプログラムにおいては、曲率半径Rの逆数を曲率ARとして定義しています。従って、曲率半径Rが小さくなると曲率ARは大きくなります。
また凸レンズで曲率ARはプラス、凹レンズで曲率ARはマイナスに定義しています。 近軸においては曲率ARの影響はないのですが、実際のレンズでは曲率ARの絶対値が大きくなると球面収差の影響が強くなります。
マイナスの曲率ARは、色収差補正のための値であり、マイナスの曲率ARの絶対値が大きいのは望ましくありません。
負曲率制限値はマイナスの曲率ARの絶対値が大きい組合せを除外する判定値です。
(9)次に負曲率制限値を-1に変更します。
(10)操作の「ガラス2種自動変更計算」を選択します。(119×119=14161通りの君合わせの中から最適な組合せを自動計算します。)
以下に計算結果数表を示します。
評価結果 3 波長分割数 10
focus標準偏差 0.0001866657
No 70 20
ガラス型名 S-LAL 8 S-NSL 3
曲率(1/mm) -0.3001073 0.4514897
各波長focus
波長(μm) focus(mm)
0.48 -0.0003710861
0.498 -0.00004976606
0.516 0.0001291659
0.534 0.000208344
0.552 0.0002184411
0.57 0.0001818396
0.588 0.0001150978
0.606 0.00003063539
0.624 -0.00006209991
0.642 -0.0001558121
0.66 -0.0002447749
上記の表から
・フォーカス標準偏差が0.187μmと良好
・ガラスS-LAL8の曲率AR=-0.300(1/mm)とおおきい
・ガラスS-NSL3の曲率AR=0.451(1/mm)とおおきい
ことがわかります。
マイナスの曲率ARの絶対値が大きいため実際のレンズ設計にはてきしません。
(11)「次頁」ボタンを押すとフォーカス誤差グラフが表示されます。
(12)閉じる」ボタンを押してグラフウインドウを閉じます。
グラフはあくまでも参考であり、計算結果数表を利用することが重要です。
負曲率制限値を最適化した計算
(13)次に負曲率制限値を-0.05に変更します。
(14)操作の「ガラス2種自動変更計算」を選択します。
以下に計算結果数表を示します。
評価結果 3 波長分割数 10
focus標準偏差 0.00125735
No 75 2
ガラス型名 S-LAL14 S-FPL53
曲率(1/mm) -0.0404387 0.1098071
各波長focus
波長(μm) focus(mm)
0.48 -0.002401969
0.498 -0.0003932673
0.516 0.0007779257
0.534 0.001340015
0.552 0.001462182
0.57 0.001270502
0.588 0.0008593885
0.606 0.0002998228
0.624 -0.0003546892
0.642 -0.001063751
0.66 -0.001796856
上記の表から
・フォーカス標準偏差が1.26μmと良好
・ガラスS-LAL14の曲率AR=-0.0404387
・ガラスS-FPL53の曲率AR=0.1098071
であることがわかります。
曲率ARの絶対値は適正です。
(15)「次頁」ボタンを押すとフォーカス誤差グラフが表示されます。
(16)閉じる」ボタンを押してグラフウインドウを閉じます。
グラフはあくまでも参考であり、計算結果数表を利用することが重要です。
操作例2
「光学ガラス3種.txt」を使用します。ガラスNo2はS-FPL53で固定として、残り2種を自動計算で求めます。
(1)「Glass.exe」をダブルクリックします。
(2)メニューの「開く」を選択します。
(3)「光学ガラス3種.txt」を開きます。
(4)操作の「ガラス2種自動変更計算」を選択します。
以下に計算結果数表を示します。
評価結果 3 波長分割数 10
focus標準偏差 0.00001148094
No 81 56 2
ガラス型名 S-LAL61 S-TIM35 S-FPL53
曲率(1/mm) -0.04722514 0.005404871 0.1167316
各波長focus
波長(μm) focus(mm)
0.48 0.000008510472
0.498 -0.00001669484
0.516 -0.00000616167
0.534 0.000007925235
0.552 0.00001369036
0.57 0.000009707292
0.588 -0.0000003937302
0.606 -0.00001085475
0.624 -0.00001534826
0.642 -0.000007770504
0.66 0.00001739033
上記の表から
・フォーカス標準偏差が0.0115μmと良好
・ガラスS-LAL61の曲率AR=-0.04722514
・ガラスS-TIM35の曲率AR=0.005404871
・ガラスS-FPL53の曲率AR=0.1167316
であることがわかります。
曲率ARの絶対値は適正です。
(15)「次頁」ボタンを押すとフォーカス誤差グラフが表示されます。
(16)閉じる」ボタンを押してグラフウインドウを閉じます。
グラフはあくまでも参考であり、計算結果数表を利用することが重要です。
操作例3
「光学ガラス4種.txt」を使用します。ガラスNo2のS-FPL53とガラスNo81のS-LAL61は固定として、残り2種を自動計算で求めます。
(1)「Glass.exe」をダブルクリックします。
(2)メニューの「開く」を選択します。
(3)「光学ガラス4種.txt」を開きます。
(4)操作の「ガラス2種自動変更計算」を選択します。
以下に計算結果数表を示します。
評価結果 3 波長分割数 10
focus標準偏差 0.000006280213
No 86 100 81 2
ガラス型名 S-LAM52 S-LAH60 S-LAL61 S-FPL53
曲率(1/mm) -0.04748825 0.03757762 -0.0480532 0.1332401
各波長focus
波長(μm) focus(mm)
0.48 0.000006835251
0.498 -0.00001033453
0.516 -0.000005520504
0.534 0.000002822023
0.552 0.000007268114
0.57 0.000006322276
0.588 0.000001522829
0.606 -0.000004191665
0.624 -0.000007388722
0.642 -0.000004628219
0.66 0.000007293124
上記の表から
・フォーカス標準偏差が0.00628μmと良好
・ガラスS-LAM52の曲率AR=-0.04748825
・ガラスS-LAH60の曲率AR=0.03757762
・ガラスS-LAL61の曲率AR=-0.0480532
・ガラスS-FPL53の曲率AR=0.1332401
であることがわかります。
曲率ARの絶対値は適正です。
(15)「次頁」ボタンを押すとフォーカス誤差グラフが表示されます。
(16)閉じる」ボタンを押してグラフウインドウを閉じます。
グラフはあくまでも参考であり、計算結果数表を利用することが重要です。
光学ガラスの種類を多くしたほうががより厳密に色焦点収差を補正できます。しかし、学ガラスの種類を多くするとレンズ枚数が増大します。
本検討によるならば、光学ガラスの種類を最適に選択するならば、2〜3種で十分な補正が可能であることが理解できます。
操作例4
特注のレンズはどうしても製作費が増大します。何よりもコストが重要な場合、標準レンズを使用する必要が生じます。シグマ光機の球面アクロマティクレンズDLB-20-100PM を1個使用して、1個の特注レンズで焦点距離を50mmに変更する場合について検討します。
「標準アクロマート.txt」を使用します。ガラスNo6のS-BSL7(BK7相当)とガラスNo52のS-TIM22(SF2相当)は固定で曲率も固定となります。残り2種を自動計算で求めます。
(1)「Glass.exe」をダブルクリックします。
(2)メニューの「開く」を選択します。
(3)「標準アクロマート.txt」」を開きます。
(4)操作の「ガラス2種自動変更計算」を選択します。
以下に計算結果数表を示します。
評価結果 3 波長分割数 10
focus標準偏差 0.005182049
No 19 1 52 6
ガラス型名 S-BSM81 S-FPL51 S-TIM22(SF2) S-BSL 7
曲率(1/mm) -0.0461946 0.07939433 -0.01645312 0.0402138
各波長focus
波長(μm) focus(mm)
0.48 -0.009766787
0.498 -0.001811757
0.516 0.002913708
0.534 0.005290155
0.552 0.005945819
0.57 0.005334537
0.588 0.003787633
0.606 0.001549139
0.624 -0.00119989
0.642 -0.00432433
0.66 -0.007722888
上記の表から
・フォーカス標準偏差が5.18μm
・ガラスS-BSM81の曲率AR=-0.0461946
・ガラスS-FPL51の曲率AR=0.07939433
・ガラスS-S-TIM22(SF2)の曲率AR=-0.01645312
・ガラスS-BSL 7の曲率AR=0.0402138
であることがわかります。
曲率ARの絶対値は適正です。
(5)「次頁」ボタンを押すとフォーカス誤差グラフが表示されます。
(6)閉じる」ボタンを押してグラフウインドウを閉じます。
グラフはあくまでも参考であり、計算結果数表を利用することが重要です。
市販標準レンズを使用すると製作費を大幅に削減できます。反面素材と曲率が固定となるため、色焦点誤差の補正精度はほどほどとなります。
感想:
(1)光学ガラスの種類は多く、どの組合せが最適か?この答えをだすためには、119×119=14161通りのケース
について、最適化計算を実施し比較検討が必要です。
(2)本プログラムの検討結果によれば、S-FPL53とS-LAL14の組合せが最適という結果になります。
(3)これに対して、標準アクロマートレンズの材質はS-BSL7(BK7)とS-S-TIM22(SF2)であり、若干の
色焦点収差が発生します。
(4)S-FPL53は不思議な特性を持つ光学ガラスです!!
(5)標準アクロマートレンズも色焦点収差が向上する時代がくるかも??
15章:光学パラメータの最適化(1) に行く。
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