4章:応用:XYステージの特性
XY方向に移動する機構(XYステージ)はさまざまな装置で使用されています。特に半導体の回路パターンを投影露光する装置に使用するXYステージには高い性能が要求されています。
高性能XYテーブルの原形は20年以上も前からホトリピータと呼ばれるマスクパターン製造装置で使われていました。これには2波長He-Neレーザのドップラー効果を利用した位置計測機能を搭載しており、2軸(XY方向)レーザ計測フィードバック制御とDCモータの組み合わせを基本としていました。
現在のステップ&リピート型のXYステージに要求される停止精度は±10〜20nm、ステップ時間は0.3〜0.4s程度であり、多軸(5軸)レーザ計測フィードバック制御、エアーベアリングガイド、リニアモータ駆動が主流となってきましたが日本は後追いの状況です。
今後の投影露光装置はスキャン型が主流となることが予想されますが、これではレチクル(原画パターン)と半導体ウェーハ(被露光体)を4対1の比を正確に維持したまま逆方向に高速で移動できる機構が必要です。要求される性能は速度1000mm/s、相対位置誤差±10nm程度と思われます。この性能が安定して実現できるかどうかがスキャン型の成功のカギを握っていると言えるでしょう。
理論的には可能!!ただし、具体化は容易なことではないと思われます。この開発ができる会社はそう多くはないとはずですが、ぜひ国産勢に勝ち残ってもらいたいものです。
1.XYステージの制御特性サンプルプログラム
XYステージの制御特性を理解するために図1にしめすXYステージの特性を求めてみます。
2.ステージ位置(Z)の計算結果のグラフ
デフォルト条件は位置フィードバック制御の場合です。通常、ステージは速度フィードバック制御で一定の加速を行い、最高速度で一定となり、一定の減速を行います。目標位置の近くでは一定の低速度で目標位置に接近し、目標位置直前で位置フィードバック制御に切り換えます。この切り換えは「(Kf)速度Fゲイン」と「(Kz)変位Fゲイン」行われます。
位置フィードバック制御の計算結果のグラフを図2に示します。
図2においてデフォルト条件では奇麗に収束していますがバネ定数(K)を1/100にすると収束特性は大幅に劣化し発振状態になります。俗に「ガタ」と言って駆動軸とステージの結合の剛性が不十分な場合です。結合の剛性を高めると収束特性は改善されますが駆動軸(ボールネジ等)やガイド部に過剰な負荷がかかり摩耗劣化が早まる場合がありどこで妥協するかは難しいでしょう。
また、DCモータの電極ブラシ部は摩耗劣化が早く頻繁にトラブルが発生するでしょう。これ以外にもガイド部のオイル劣化、異常加速度によるワーク対象物の位置ズレ等いろいろなトラブルが発生する可能性があります。
収束特性を悪化させる原因としては、摩擦力があります。摩擦力が大きいと本サンプルプログラムのような線形フィードバック制御の場合、目標位置に達する前に停止しオフセット誤差を生じます。これを防止する方法としては目標位置直前で階段状の非線形フィードバック制御があります。これにより、目標位置直前で微小振動状態を作りだしオフセット誤差を防止できます。(俗にデジタルゲインと呼ばれています。)しかし、常に微小振動状態のため、機構の劣化を早める可能性があります。
これ以外に収束特性に関係するものは「ステージ質量」、「モータ時定数」等がありますがこれは小さいほど良くなります。
最近の主流技術「多軸(5軸)レーザ計測フィードバック制御、エアーベアリングガイド、リニアモータ駆動」は上記課題の良き回答と言えるでしょう!!
注記:(H)時間刻みをデフォルト値より大きくすると数値計算の誤差により結果が発振します。(これを幻影解と言います。)小さくすると計算精度は良くなりますが時間がかかります。「Java Script」は処理が遅いなあ!!(独り言)
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