プログラム:XYテーブルの応答特性

  1.  XYテーブル
     XYテーブルはほとんどの装置で必要となる基本的な機構です。しかし、ステージに要求される仕様は さまざまであり、多様な方式のXYテーブルが必要となります。
     XYテーブルは駆動機構とガイド機構から構成されますが、さまざまな方式があります。  高速・高精度のXYテーブルの駆動機構としては、従来ボールネジ方式が数多く採用されていましたが、 近年の主流はリニアーモータ方式となっています。これはリニアーモータ方式が高速・高精度を実現 しやすいためです。
     プログラムBでは、ボールネジ方式とリニアーモータ方式のXYテーブルの応答特性が計算できます。 ボールネジ方式とリニアーモータ方式の応答特性の差については、種々のパラメータを設定し、応答特性 の違いを計算することにより、特性の差が明らかになるでしょう。
  2.  ボールネジ方式XYテーブル
     図B1にボールネジ方式XYテーブルの基本構成を示します。応答特性を計算するためには、単純な 数式で表現できるようにモデル化が必要です。厳密に考えると式は複雑になり、計算が難しくなります。 逆に単純すぎると実際の現象が計算結果に現れなくなります。
     モデル化にあたって重要なポイントは図B1におけるボールネジとナットの剛性、ベアリングの剛性、 ナットと移動ステージの結合部品の剛性、ベアリングを支持する部品の合成等ですが、計算モデルではこれら を一まとめにして単純にバネ定数(K)として表現します。
     このバネ定数(K)が大きければXYテーブルの応答特性は改善しますが、実際の値でバネ定数(K)を大きく するのは難しく限界があります。
     
  3.  ボールネジ駆動タイプXYステージの解析モデル
     ボールネジ駆動タイプXYステージの解析モデルを図B2に示します。
    (1)ガイド部
    ・ガイド部では摩擦力は発生します。これを記号(Ff)単位(kg*mm/s^2)とします。
    (2)移動部
    ・移動部では質量が主要パラメータです。これを記号(M)単位(kg)とします。
    ・移動部は変位を生じます。これを記号(Y)単位(mm)とします。
    (3)ナット部
    ・ナット部では結合部材のバネ定数が主要パラメータです。これを記号(K)単位(Kg/s^2)とします。
    ・ナット部では回転運動が直線運動に変換され変位を生じます。これを記号(X)単位(mm)とします。
    (4)ボールネジ部
    ・ボールネジ部は慣性モーメントが主要パラメータです。これを記号(Jb)単位(Kg*mm^2)とします。
    ・1回転あたりの送りピッチをリードといいます。これを記号(P)単位(mm)とします。
    (5)モータ部
    ・モータ部では慣性モーメントが主要パラメータです。これを記号(Jm)単位(Kg*mm^2)とします。
    ・電流あたりのトルクが主要パラメータです。これを記号(Ka)単位(Kg*mm^2/(s^2*A))とします。
    ・自己発電作用による粘性抵抗が発生します。これを記号(Cs)単位(Kg*mm^2/s)とします。
    ・回転変位を生じます。これを記号(S)単位(rad)とします。
    (6)検出部
    ・検出部では回転パルス数を検出します。これを記号(Pn)単位(パルス)とします。
    ・1パルス当りの回転角度を分解能とします。これを記号(ds)単位(rad/パルス)とします。
    (7)変位フィードバック部
    ・検出部で検出された変位に一定数をかけてフィードバックします。このゲインを記号(Ks) とします。
    (8)速度フィードバック部
    ・検出部で検出された速度に一定数をかけてフィードバックします。このゲインを記号(Kv) とします。
    (9)指令部
    ・目標に応じて指令電流を設定します。これを記号(A0)単位(A)とします。
     
  4.  ボールネジ駆動タイプXYステージの解析モデルの方程式   図B2に示すモデルを数学的な方程式で表現すると下記式となります。

    上記の(1)式は回転→直線変換式であり、説明するまでもありません。
    (2)式は移動部の運動方程式です。ここで±Ffの項は摩擦力の項であり、扱いに注意が必要です。摩擦力は運動の速度を落とす方向に働きます。速度の正負によって摩擦力の正負が切り替わる不連続な関数です。
    (3)式はモータの運動方程式です。ここでモータには変位と速度に比例した電流がフィードバックされます。(線形フィードバック制御)注意しなければならない点は変位(ds*Ps)と速度(ds*dPs/dt)はデジタルであり不連続に変化することです。
    (4)式はパルス数(Pn)を与えるデジタル化の式です。

  5.  特性パラメータの推定と単位の統一化
     前記の方程式を解くためには、単位が統一された特性パラメータの値を設定する必要があります。この作業は以外と厄介な作業で正確な値が不明な場合は、推定値を用います。また、慣用的に用いられる単位は統一されていませんので単位の変換が必要です。
     表1に変換前の特性パラメータの推定値例を示します。
    表1 変換前の特性パラメータの推定値例
    No特性仕様記号単位備考
    1モータの慣性モーメントJmo0.12gf*cm*s^2カタログデータ
    2ボールネジ半径BSr6mm図面データ
    3ボールネジ長さBSL650mm図面データ
    4鉄の比重Feρ0.0000079kg/mm^3物理表
    5ボールネジリードP4mm図面データ
    6モータトルクMt0.319N・mカタログデータ
    7最大回転数N4000rpmカタログデータ
    8モータ定格電流MI1.3Aカタログデータ
    9ロータリエンコーダ分割数RE4000分割カタログデータ
    10移動質量M60kg推定値
    11摩擦抵抗Ffo0.5kgf推定値
    12バネ定数Ko1kgf/um推定値

     表1の特性パラメータの内1〜9はカタログ、図面等から値を知ることができます。移動質量 、摩擦抵抗、バネ定数は実物があれば実測可能です。この3つのパラメータはXYテーブルの応答特性 を大きく左右しますが、組立て、出荷検査できちんと管理されてないのが現状です。とりあえず推定値 を用います。
     表1から換算できないパラメータとしては、変位フィードバックゲインと速度フィードバック ゲインがあります。これについては、シミュレーション結果をみて調整します。
     換算後の特性パラメータを表2に示します。
     表2 換算後の特性パラメータ例
    No特性仕様記号単位計算式備考
    1モータの慣性モーメントJm11.76Kg*mm^2Jm=Jmo*980*10*10/1000単位変換
    2ボールネジ慣性モーメントJb10.453Kg*mm^2Jb=π*BSr^4*BSL*Feρ/2モーメント計算
    3ボールネジリードP4mm
    4粘性抵抗Cs761.556Kg*mm^2/sCs=10^6*Mt/(2*π*N/60)トルクと回転数
    5電流換算トルクKa245384.615Kg*mm^2/(s^2*A)Ka=10^6*Mt/MIトルク/電流
    6角度検出分解能ds0.00157radda=2*π/RE単位変換
    7移動質量M60kg
    8摩擦抵抗Ff4900kg*mm/s^2Ff=Ffo*9800単位変換
    9バネ定数K9800000Kg/s^2K=9800*1000*Ko単位変換


  6.  リニアーエンコーダ使用の場合の計算式
     以上のXYステージ計算モデルは、検出器としてはロータリーエンコーダを前提に議論してきましたが、XYステージの検出器としてはリニアーエンコーダやレーザ測長機が用いられることがあります。
     この場合回転検出から直線検出に変換するする必要がありますが、計算式の変更箇所は僅かです。
     リニアーエンコーダやレーザ測長機の最小分解能を(dx)とします。

  7.  計算の実行
     VBAソフト「ステージ1.xls」をダブルクリックして起動した後、 シート「デェフォルト条件」の条件表の内容をシート「IN_FM」にコピーします。
    次にシート「操作」の「計算実行」ボタンを押します。
    計算結果の概要が表示されます。

    デフォルト条件表 
    No記号単位説明
    1Et0整数ロータリエンコーダの場合Et=0、リニアエンコーダの場合Et=1を設定する。
    2ds0.00157radロータリエンコーダ角度検出分解能、単位(rad)(ロータリエンコーダ指定時有効)
    3dx0.00005mmリニアエンコーダ検出分解能、単位(mm)(リニアエンコーダ指定時有効)
    4Jm11.76Kg*mm^2モータの慣性モーメント、単位(Kg*mm^2)
    5Jb10.45Kg*mm^2ボールネジ慣性モーメント、単位(Kg*mm^2)
    6P4mmボールネジリード、単位(mm)
    7Cs761.55Kg*mm^2/sモータ粘性抵抗、単位(Kg*mm^2/s)
    8Ka245384.6Kg*mm^2/(s^2*A)電流あたりのモータトルク,単位(Kg*mm^2/(s^2*A))
    9M60kg移動部質量、単位(kg)
    10Ff4900kg*mm/s^2摩擦抵抗、単位(kg*mm/s^2)
    11K9800000Kg/s^2バネ定数、単位(Kg/s^2)
    12Ks10A/mm変位フィードバックゲイン、単位(A/mm)
    13Kv0A*s/mm速度フィードバックゲイン、単位(A*s/mm)
    14A00A指令電流(目標設定)、単位(A)
    15Y00.01mmナット部変位初期値、単位(mm)
    16Y10mm/sナット部速度初期値、単位(mm/s)
    17Y[2]0.01mm移動部変位初期値、単位(mm)
    18Y[3]0mm/s移動部速度初期値、単位(mm/s)
    19h0.00001s計算時間間隔、単位(s)(計算時間が長くなりますが小さくしたほうが精度がよい。)
    20N20000整数計算回数(整数)(計算時間間隔×計算回数でトータル時間)
    21Np100整数計算結果の出力間隔回数(整数)(計算結果を全て出力すると見苦しくなるため間引きをします。)
    22Ff4900kg*mm/s^2摩擦抵抗
    23K9800000Kg/s^2バネ定数

  8.  デフォルト条件計算結果
     デフォルト条件計算結果を図B3に示します。
     図B3からナット部分は収束後微小振動が残りますがステージ変位は0.1μm程度オフセット した位置で安定状態となります。
     振動の制定とオフセットに関しては摩擦力が重要な役割を果たしします。振動をきらうか? オフセットをきらうか?によって最適な摩擦力は異なってきます。摩擦力は必ずしも小さければ よいと言う訳ではありません。摩擦力がゼロの場合、速度フィードバックを行なわないと振動が 収まらなくなります。また±数ビットの微小振動が残ります。

  9.  リニアーエンコーダ使用の場合
     計算条件入力ダイアログでEt=1を設定するとリニアーエンコーダ使用の場合の 応答特性を計算します。レーザ測長器を使用の場合も同様で、この場合検出分解能 dxを細かく設定します。

     本計算は単純なモデル計算ですので、バネ定数Kを限りなく大きく設定すれば、 応答特性はいくらでも改善できるでしょう。
     しかし、大きなバネ定数が実際に実現できるか?ということは別問題です。
     実際には、回転運動を直線運動に変換し、移動ステージ連結する過程で多くの 機構部品を必要とします。
     機構部品は鉄等の弾性材料であるため弾性変形します。従ってバネ定数Kを限りなく大きく することは困難となります。
     
     リニアーモータは直線運動を直接移動ステージに伝達できるため、応答特性は 大幅に改善することが可能です。
  10. リニアーモータXYテーブルの応答特性に行く。

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