アクロマートレンズ設計事例


  1. 近軸理論によるレンズの計算式
     近軸理論において、図H1に示す片凸レンズの半径Rと屈折率Nと 焦点Fの間には、下記の関係式が近似的に成立します。
      F=R/(N-1) -----(H1)式

     光学ガラスの屈折率は波長によって、変化するため波長によって 焦点位置が変化する問題が発生する。この点については2種類の 光学ガラスを組合せすることによって焦点位置の補正が可能です。
     図H2に示す条件において、
     仮に光学ガラスBK7の波長eにおける屈折率をNekとし、波長dに おける屈折率をNdkとします。
     同様に光学ガラスSF11の波長eにおける屈折率をNefとし、波長dに おける屈折率をNdfとします。このとき、下記の関係式が成立します。
      (Nek-1)/Rk+(Nef-1)/Rf=1/F -----(H2)式
      (Ndk-1)/Rk+(Ndf-1)/Rf=1/F -----(H3)式
      (H2)式、 (H3)式からレンズの半径Rk、 Rfを決定できます。
     上記計算は、単純な計算であり、電卓で十分に計算可能です。
     
     同様な展開で3種類の光学ガラスを使用すれば、3波長補正が可能な ことが類推できます。

     しかし、近軸理論でデザインしたレンズは、球面による収差が考慮 してないため、一般的には大きな光学収差を発生する可能性が高く、
    実用性にとぼしくなります。

  2. 光学ガラスの選定
     光学系の特性を決定する要素は光学ガラスの「屈折率」とレンズの「曲率半径」であり、光学ガラスを選定しないと今後の議論を進めることができません。
     今回の検討対象は波長範囲を青から赤の可視光とします。この場合、古くからよく知られているクラウンガラスBK7、フリントガラスSF11等が選定対象となります。
     今回は多波長での色補正最適化を実施するため、 BK7とSF11の中間の特性を持つLaF 2を選定します。
     上記光学ガラスの命名は、「Schott」社によるものでかつては、「小原」「保谷」等の光学ガラスメーカも同じ名称を使用していましたが、最近では独自の命名をおこなっています。
     表1に選定した光学ガラスの屈折率を示します。(住田光学のデータによる。)

    表1 光学ガラスの屈折率(住田光学)
    波長 nC nC' nD nd ne nF nF' ng
    K-BK7 1.51385 1.51425 1.51626 1.51633 1.51825 1.52191 1.52237 1.52622
    SF11 1.77597 1.77733 1.78446 1.78472 1.79191 1.80649 1.80838 1.82525
    K-LaF2 1.73907 1.73984 1.74386 1.744 1.74794 1.75565 1.75662 1.76502


  3. 単レンズの設計(近軸理論)
     単レンズの光学ガラスはBK7を用います。
    (1)近軸理論での計算
     表1のe線でのBK7の屈折率は「N=1.51825」となります。
     今、仮に 図H3に示す寸法において焦点距離「F=145mm」とするならば(H1)式より、「R=75.146mm」となります。

  4. 単レンズの設計(光線追跡)
     VBAソフト「光線追跡.xls」をダブルクリックして起動します。
     このソフトの使いこなしは大変複雑です。 一度に全てを説明するのは難しいので、簡単な事例のサンプルで説明します。

    シート「単レンズ1」の条件表の内容をシート「IN_FM」にコピーします。
    シート「単レンズ2」の条件表の内容をシート「IN_FM2」にコピーします。
    シート「IN_FM」は「スポットダイアグラム計算条件入力表」と 「光学系基本定数表」が設定されます。
    シート「IN_FM2」は「レンズ曲率(1/R)最適化計算入力表」 と「評価光線の設定」が設定されます。
     ここで「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(1)0.01332868を0に変更して下さい。 本来曲率(1/mm)1/R(1)の値は不明のはずです。

    次にシート「操作」の「曲率半径最適化計算実行」ボタンを押します。
     ファイルは全て置き換えを選択して下さい。
     クリップボードへの保存は不要です。
     計算が終わると下記の表が表示されます。
     
    N次元Gauss-Newton法によるレンズ曲率(1/R)最適化計算結果
    No E Xa Xs Ya Ys 1/R(0)
    1 3.316625 0.00000 2.406133 0.000000 2.406133 0
    2 1.10476 0.00000 0.801477 0.000000 0.801477 0.008895
    3 0.36781 0.00000 0.266837 0.000000 0.266837 0.011853
    4 0.122546 0.00000 0.088904 0.000000 0.088904 0.012837
    5 0.040859 0.00000 0.029642 0.000000 0.029642 0.013165
    6 0.013673 0.00000 0.00992 0.000000 0.00992 0.013274
    7 0.004717 0.00000 0.003422 0.000000 0.003422 0.01331
    8 0.001988 0.00000 0.001443 0.000000 0.001443 0.013323
    9 0.001386 0.00000 0.001005 0.000000 0.001005 0.013327
    10 0.001302 0.00000 0.000945 0.000000 0.000945 0.013328
    11 0.001292 0.00000 0.000937 0.000000 0.000937 0.013328
    12 0.001291 0.00000 0.000937 0.000000 0.000937 0.013329
    13 0.001291 0.00000 0.000937 0.000000 0.000937 0.013329

    E は評価光線の設計目標からの誤差の標準偏差(mm)
    Xa は評価光線の設計目標からの誤差のX方向平均値(mm)
    Xs は評価光線の設計目標からの誤差のX方向標準偏差(mm)
    Ya は評価光線の設計目標からの誤差のY方向平均値(mm)
    Ys は評価光線の設計目標からの誤差のY方向標準偏差(mm)
    1/R(0)はレンズ曲率半径の逆数(1/mm)

     12回ほどの計算で誤差が最小となる値に収束しています。
     従って最適レンズ曲率半径=1/0.01332865=75.026mmとなります。


     次に「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(1)を0.01332868に変更して下さい。
     次にシート「操作」の「スポットダイアグラム計算実行」ボタンを押します。
     ファイルは全て置き換えを選択して下さい。
     クリップボードへの保存は不要です。
     計算が終わると下記の表が表示されます。

    波長1(中心光束の軌跡)
    i 1/R(i) Z(i) X(i) U(i) Y(i) V(i)
    0 0 0 0 0 0 0
    1 0.013329 10 0 0 0 0
    2 0 14 0 0 0 0
    3 0 156 0 0 0 0
    4 0 156 0 0 0 0
                 
    波長1(スポットダイアグラム)
    No U(i) V(i) X(i) Y(i)
    1 -0.0346 0 0.001869 0
    2 -0.03027 -0.01298 0.001101 0.000472
    3 -0.03026 -0.00865 0.000657 0.000188
    4 -0.03026 -0.00432 0.00039 0.000056
    5 -0.03026 0 0.000301 0
    6 -0.03026 0.004324 0.00039 -5.6E-05
    7 -0.03026 0.008649 0.000657 -0.00019
    8 -0.03027 0.012975 0.001101 -0.00047
    9 -0.02595 -0.02163 0.001173 0.000977
    10 -0.02594 -0.0173 0.000487 0.000325


    波長1(中心光束の軌跡)では各レンズ面位置での中心光束の角度と位置が表示されます。
    波長1(スポットダイアグラム) では最終面での光束の角度と位置が表示されます。 これがスポットダイグラムとなります。


  5. 多波長補正アクロマートレンズの設計
     アクロマートレンズは、高精度低収差の光学系に用いられます。
     近軸理論では、収差を考慮した設計が困難であり、 アクロマートレンズの設計は光線追跡によって行なう必要があります。
     図H4に示す寸法条件において
    N1=SF11
    N2=BK7
    N3=LaF2
    とします。
     VBAソフト「光線追跡.xls」をダブルクリックして起動します。

    シート「アクロマート1」の条件表の内容をシート「IN_FM」にコピーします。
    シート「アクロマート2」の条件表の内容をシート「IN_FM2」にコピーします。
    シート「IN_FM」は「スポットダイアグラム計算条件入力表」と 「光学系基本定数表」が設定されます。
    シート「IN_FM2」は「レンズ曲率(1/R)最適化計算入力表」 と「評価光線の設定」が設定されます。
     ここで「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(1)0.0299654を0に変更して下さい。
     ここで「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(2)0.03027012を0に変更して下さい。
     ここで「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(3)-0.02098765を0に変更して下さい。
     ここで「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(4)0.006826454を0に変更して下さい。 本来曲率(1/mm)1/R(i)の値は不明のはずです。

    次にシート「操作」の「曲率半径最適化計算実行」ボタンを押します。
     ファイルは全て置き換えを選択して下さい。
     クリップボードへの保存は不要です。
     計算が終わると下記の表が表示されます。
     
    N次元Gauss-Newton法によるレンズ曲率(1/R)最適化計算結果
    No E Xa Xs Ya Ys 1/R(0) 1/R(1) 1/R(2) 1/R(3)
    1 3.316625 0.0000 2.364999 0.00000 2.364999 0 0 0 0
    2 1.052782 0.0000 0.750711 0.00000 0.750711 -0.00218 0.004416 -5.9E-05 -0.01035
    3 0.366045 0.0000 0.261017 0.00000 0.261017 0.033279 0.01459 -0.08804 -0.00591
    4 3.379057 0.0000 2.409518 0.00000 2.409518 0.084853 0.074498 -0.05807 0.045914
    5 1.315529 0.0000 0.93807 0.00000 0.93807 0.072698 0.066667 -0.04873 0.039059
    6 0.603385 0.0000 0.430258 0.00000 0.430258 0.061424 0.057013 -0.04057 0.030678
    7 0.32719 0.0000 0.233311 0.00000 0.233311 0.05128 0.048048 -0.03349 0.022851
    8 0.199712 0.0000 0.142409 0.00000 0.142409 0.042415 0.040447 -0.02739 0.016154
    9 0.123388 0.0000 0.087985 0.00000 0.087985 0.03523 0.034561 -0.02257 0.010893
    10 0.060714 0.0000 0.043294 0.00000 0.043294 0.030968 0.031179 -0.02022 0.007781
    11 0.020676 0.0000 0.014744 0.00000 0.014744 0.030348 0.030614 -0.02074 0.007184
    12 0.007027 0.0000 0.005011 0.00000 0.005011 0.030059 0.03036 -0.02087 0.006924
    13 0.00247 0.0000 0.001761 0.00000 0.001761 0.029986 0.030292 -0.02094 0.006851
    14 0.001124 0.0000 0.000802 0.00000 0.000802 0.029987 0.030289 -0.02098 0.006845
    15 0.000853 0.0000 0.000609 0.00000 0.000609 0.029933 0.030246 -0.02096 0.006805
    16 0.000817 0.0000 0.000582 0.00000 0.000582 0.029932 0.030245 -0.02096 0.006804
    17 0.000813 0.0000 0.00058 0.00000 0.00058 0.029894 0.030215 -0.02093 0.006777
    18 0.000812 0.0000 0.000579 0.00000 0.000579 0.029943 0.030253 -0.02097 0.006811
    19 0.000812 0.0000 0.000579 0.00000 0.000579 0.029929 0.030242 -0.02096 0.006801
    20 0.000812 0.0000 0.000579 0.00000 0.000579 0.029965 0.03027 -0.02099 0.006826

     1/R(0)〜 1/R(3) の値が自動計算されます。
     ここで1/R(0)は「IN_FM」で最適化条件CaR[i]に「V」が最初に設定されたレンズ面に相当 します。1/R(1)は「V」の2番目の面です。


     次に「IN_FM」の曲率(1/mm)1/R(0)〜 1/R(3)を計算された値に変更して下さい。
     次にシート「操作」の「スポットダイアグラム計算実行」ボタンを押します。
     スポットダイアグラムが計算できます。

    注)曲率の自動計算は必ずうまくいくわけではありません。うまくいくのは極めて 限られた条件のみです。(どのように計算条件を設定すればうまくいくか?これは多くの場合 ノウハウです。)

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