15章:ラジカル重合(4)

  1. 重合開始剤
     ラジカル反応性有機材料を効率良く反応させるためには 重合開始剤を混合する必要があります。
     重合開始剤には熱重合開始剤と光重合開始剤が あります。

  2. 熱重合開始剤
     代表的な熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル(BPO)  cas No 94-36-0があります。
     過酸化ベンゾイル(BPO)の反応を図15-1に示します。

     過酸化ベンゾイル(BPO)の発火点は80℃と低く、僅かの加熱で 2個のベンゼン環ラジカルと2個の二酸化炭素に分裂します。

     O-O結合エネルギーは147kJ/molと小さい値です。
     C-C結合エネルギーは368kJ/molです。
     C=O結合エネルギーは799kJ/molです。
     C-O結合エネルギーは352kJ/molです。

     最初の分裂に必要なエネルギーは
     147+2×368=883kJ/mol
    となります。
     O=C-O結合がO=C=O結合に変化する際発生するエネルギーは
     2×(799-352)=894kJ/mol
    と最初の分裂に必要なエネルギーを11kJ/mol上回ります。

     ベンゼン環ラジカル同士が反応しますと368kJ/molのエネルギー が発生します。
     従って、トータル379kJ/molのエネルギーが発生して温度上昇が 起こります。

     過酸化ベンゾイル(BPO)の発火点が80℃と低い理由としては、 O-O結合エネルギーが147kJ/molと小さいだけでは説明がつきません。
     両端にエネルギーを吸収しやすいベンゼン環があり、ベンゼン環が独立に エネルギーを吸収して、分子内振動によりO-O結合にエネルギーが集中する ことが考えられます。

     ラジカル反応性有機材料に約1%程度の過酸化ベンゾイル(BPO)を混合し、 約100℃に加熱すると過酸化ベンゾイル(BPO)が起爆剤となってラジカル反応 の連鎖反応が発生します。

     過酸化ベンゾイル(BPO)は発火しやすいので、密閉、低温保管が 必要です。




  3. 光重合開始剤
     光重合開始剤の種類は多数あります。しかし、原理は同じですので
     2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン cas No 24650-42-8
    を例にとって説明します。
     2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの分子構造を図15-2に示します。

     光重合開始剤の特徴的な分子構造は
    ・両端に光吸収の強いベンゼン環を配置
    ・中央にC=O結合またはC-O-C-O-C結合を配置
    です。
     C=O結合またはC-O-C-O-C結合電荷分布(極性)を持ちます。

     光重合開始剤は以下のメカニズムでラジカル反応 の連鎖を起こすと思われます。
    ・ベンゼン環が光を吸収し振動する。
    ・ベンゼン環の振動がC=O結合またはC-O-C-O-C結合の振動を引き起こす。
    ・ラジカル反応性有機材料のC=O結合部が共振して振動する。
    ・C=O結合部の振動がC=C結合に伝播して、ラジカルを発生する。

     以上のメカニズムから推定するに光重合においては、ラジカル反応性有機材料に C=O結合が必要であり、アクリレート基やメタクリレート基は光重合に適するが、 アリル基は適さないことになります。

     光重合開始剤は通常1%〜10%の範囲でラジカル反応性有機材料に混合します。
    (熱重合開始剤と比較するとやや多めとなります。)





     
16章:光のエネルギーに行く。

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