10章:熱膨張誤差の制御

    作成2011.10.05
  1. 熱膨張誤差制御システム
     クリーンルームの温度はいつも23℃で一定に保たれています。露光装置の 置かれる環境は23±0.1℃以下の範囲で精密に制御されています。
     じかし、装置内にはさまざまな熱源があり、熱源は時間で変動するため、石英スタンパ や被転写基板の温度が変動することがあります。
     温度変動の最大原因は、露光のための紫外線照射による温度変動ですが、ステージ駆動の ためのリニアモータ等も温度変動の原因となります。
     石英スタンパも被転写基板も熱膨張するため、熱膨張起因のスケール誤差が発生します。
     高位置精度を達成するためには、熱膨張誤差を厳密に制御することが不可欠です。

     熱膨張誤差制御システム例を図10-1に示します。
     図10-1において、環境温度は23±0.1℃に制御されているとします。
     紫外線照射やリニアモータによる発熱は、石英スタンパや被転写基板の温度を上昇する 方向に働きます。
     ここで、環境温度が23℃に設定されているのは、人間の作業環境を考慮しての設定であり、 必ずしも石英スタンパや被転写基板の設定温度を23℃にする必要はありません。
     ここでは、仮に石英スタンパや被転写基板設定温度を環境温度より5℃高い28℃に 設定するとします。
     ここで注意しなければならないのは、長寸法の基準温度が23℃となっている点です。 基準温度を28℃とするわけですので、運用上の補正が必要となります。(あらかじめ、 石英スタンパの長寸法を補正して作成する必要があります。)

     図10-1において、石英スタンパは遠赤外ヒータを用いて加熱し28℃になるように制御 します。遠赤外ヒータに流す電流が少なければ、石英スタンパの温度は23℃の方向に 変化するでしょう。遠赤外ヒータに流す電流を大きくすると石英スタンパの温度は28℃ を越える方向に温度が変化するはずです。
     ここで、R=10m石英板には温度センサーが仕込まれており、温度センサー部の温度が28℃ になるように厳密な制御が可能です。

     同様に被転写基板はヒータを用いて加熱し28℃になるように制御 します。ヒータに流す電流が少なければ、被転写基板の温度は23℃の方向に 変化するでしょう。ヒータに流す電流を大きくすると被転写基板の温度は28℃ を越える方向に温度が変化するはずです。
     ここで、ウエハチャックには温度センサーが仕込まれており、温度センサー部の温度が28℃ になるように厳密な制御が可能です。

     ここで疑問が生じるのは、温度センサー部の温度が石英スタンパや被転写基板の温度と 等しいのか?石英スタンパや被転写基板に直接温度センサーを付けられないのか?
     実装上の都合で石英スタンパや被転写基板に直接温度センサーを付けられないのです。
     石英スタンパや被転写基板の近傍に設置するきりありません。 従って、若干の温度誤差が生じるはずです。しかし、環境温度、R=10m石英板温度、ウエハチャック温度と 石英スタンパ温度、被転写基板温度の関係式を実験的に見出せれば、環境温度、R=10m石英板温度、ウエハチャック温度 で制御することは可能なはずです。


  2. スケール誤差補正システム
     実用機では、超高精度のレーザ測長フィードバックのXYθステージを実装します。 また、高精度パターン認識によるアライメント機能を実装します。
     上記の機能により、被転写基板上のパターンの長寸法を厳密に測定することが可能です。
     石英スタンパのパターンを被転写基板上に転写すれば、転写パターンの長寸法を厳密に測定することが可能です。
     もし、上記の長寸法に不一致が確認された場合、図10-1に示す制御システムでは、石英スタンパと被転写基板の 温度をそれぞれ独立に制御できるため、長寸法の不一致を補正することが可能です。

     スケール誤差補正システムは、超高精度のレーザ測長フィードバックのXYθステージと高精度パターン認識によるアライメント機能 を必要とするため、実用機の試作段階で確認できることになります。


  3. まとめ
    ・ナノインプリント技術は次世代リソグラフィー技術として、最も有望です。
    ・実用化のためには、無欠陥ステップ&リピート転写の実証が不可欠です。
    ・さらには、転写パターンのスケール誤差(熱膨張誤差)の厳密な制御の実証が必要です。




工学関係の雑学7章:加圧によるレジスト流動に行く。

トップページに戻る。