20章:エンジニアリング・プラスチック
作成2012.01.27
金属材料は耐熱性があり、硬く、高強度で錆びやすい特性があります。しかし、用途によってはあまり硬くないほうが都合が
良い場合があります。
かなり、昔の話になりますが
・薬液処理用の基板収納ケース
・エアーベアリング搬送におけるガイド
・ローラ搬送時のローラ外輪
等に樹脂材料を使用しました。テフロンはかなり昔からある樹脂材料で耐熱性、耐薬品性に優れています。欠点としては、機械
材料としては柔らかすぎて機械加工性が悪い点があります。
耐熱性、耐薬品性が要求されない場合の代替材料としては「ジュラコン」がありました。。
- ポリエチレン(記号PE)とテフロン(記号PTFE)
ポリエチレン(記号PE)は炭素と水素の化合物で最も単純な分子構造をしています。
図20-1にPEの分子構造を示します。図20-1からポリエチレン(記号PE)が繊維の塊であることができます。
図20-2にPTFEの分子構造を示します。図20-2からテフロン(記号PTFE)が繊維の塊であることができます。
表20-1にポリエチレン(記号PE)とテフロン(記号PTFE)の特性比較表を示します。
表20-1 ポリエチレン(記号PE)とテフロン(記号PTFE)の特性比較
項目 | 単位 | ポリエチレン PE | テフロン PTFE |
比重 | - | 0.94〜0.96 | 1.70〜2.2 |
引張降伏応力 | MPa | 21〜37 | 19〜34 |
破壊ひずみ | % | 15〜100 | 200〜400 |
引張弾性率 | MPa | 380〜980 | 390 |
曲げ応力 | MPa | 6.8 | - |
耐熱温度(連続) | ℃ | 100〜120 | 290 |
耐燃性 | - | 可燃 | 不燃 |
体積抵抗率 | Ω・m | >10^18 | >10^20 |
耐酸性 | 円段階 | ○ | ◎ |
耐アルカリ性 | 四段階 | ◎ | ◎ |
耐溶剤性 | 四段階 | ○ | ◎ |
吸水率 | % | <0.01 | 0 |
透明性 | - | 透〜不透明 | 半透明 |
耐候性 | - | クラック発生 | 優 |
表20-1において
- 比重
PEが0.94〜0.96と軽いのに対して、PTFEが1.7〜2.2と重くなります。これは水素原子とフッ素原子の重さの違いによるものです。
- 破壊歪
PEが15〜100%、PTFEが200〜300%でよく伸びる性質があります。
- 引張弾性率
PEが380〜980MPa、PTFEが390MPaと鉄鋼の210GPaと比較して約1/500です。
- 耐熱温度
PEが100〜120℃、PTFEが290℃と大きな差があります。
なぜでしょうか?それは、フッ素原子の特性から生じたと考えられます。フッ素は全ての元素の
中で最高の電気陰性度を持ちます。このため、他の元素と激しく反応する性質があります。炭素とフッ素は強
力に結合し、低温では分解しないためと思われます。
- 耐燃性
PEが可燃、PTFE不燃とあります。PEは木材と同じで、燃焼させると水と二酸化炭素になります。PTFEは不燃とありま
すが、高温に熱すると分解し、毒ガスが発生します。このため、PTFEは燃やしてはいけません。
- 耐薬品性
PTFEの方が、耐薬品性に優れます。これも炭素とフッ素の結合の影響と覆われます。
- 吸水率
PE、PTFEともに吸水率は小さく優れています。
- ポリアセタール(記号 POM)
ポリアセタールは図20-3に示すホモポリマーと図20-4に示すコポリマーがあります。
ポリアセタールは機械加工性が良く、広く機械加工材料として使用されています。このため、ポリアセタールは多くのメーカ
から市販されています。
古くは、ポリプラスチックス社のジュラコン(コポリマー)、デュポン社のデルリン(ホモポリマー)有名ですが、旭化成のテナック(ホモポリマー、
コポリマーおよびブロックコポリマー)、三菱ガス化学のユピタ−ル(コポリマー)、クオドラントポリペンコジャパン株式会社のポリペ
ンコアセタール(コポリマーおよびホモポリマー)等があります。
類似の材料なのですが、商品名はそれぞれ異なります。さらにややこしいのは、着色、添加物等の違いがあり、さまざまなグレー
ドが存在します。
一言にポリアセタールと指定しても、厳密には同じとはなりません。もし、厳密に材料を限定した場合は、メーカとグレード、色等を
指定する必要があります。
表20-2にポリアセタール(記号 POM)の特性例を示します。
表20-2 ポリアセタール(記号 POM)の特性例
項目 | 単位 | 測定値 |
引張り降伏強さ | MPa | 62 |
引張り破断強さ | MPa | 56 |
引張り破断伸び | % | 75 |
曲げ強さ | MPa | 91 |
曲げ弾性率 | MPa | 2640 |
圧縮降伏強さ | MPa | 110 |
比 重 | ― | 1.41 |
吸水率(水中24Hr) | % | 0.22 |
連続使用温度 | ℃ | 105 |
燃焼性 | ― | HB |
体積固有抵抗 | Ω・cm | 1014 |
表20-2において
- 引張破断伸び
75%と良く伸びることがわかります。
- 曲げ弾性率
2640MPaとポリエチレンの380〜980MPaと比較して大きくなっています。これは、繊維を原子レベルで見た場合、一様な太
さではなくでこぼこするのと、酸素の電気陰性度により電荷の分極が生じるため、繊維がからみやすくなることが考えられます。
- 比重
1.41とポリエチレンの0.94〜0.96と比較して重くなります。これは水素の比率が減ったためと思われます。
- 吸水率
0.22%とポリエチレンの0.01%と比較して大きくなります。繊維の隙間が大きくなるためと思われます。
- 連続使用温度
105℃と低い温度です。
- ポリアミド(記号 PA)
ポリアミドとは、アミド結合による樹脂の総称です。ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロ
ン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612等がありますが、図20-6に示すナイロン66が有名です。
ポリアミド(記号 PA)という名称よりナイロンの名称が広く使われています。一言にナイロンといっても厳密には多くの種類があります。
表20-3にナイロン66の特性例を示します。
表20-3 ナイロン66の特性例
項目 | 単位 | 測定値 |
引張り降伏強さ | MPa | 85 |
引張り破断強さ | MPa | ― |
引張り破断伸び | % | 100 |
曲げ強さ | MPa | 120 |
曲げ弾性率 | MPa | 2850 |
圧縮降伏強さ | MPa | 106 |
比 重 | ― | 1.13〜1.15 |
吸水率(水中24Hr) | % | 1.1〜1.5 |
連続使用温度 | ℃ | 105 |
燃焼性 | ― | 自己消火性 |
体積固有抵抗 | Ω・cm | 4.5×1014 |
表20-3において
- 引張破断伸び
100%とポリアセタールの75%と比較すると大きくなります。
- 曲げ弾性率
2850MPaとポリアセタールの2640MPaと比較してほぼ同じです。これは、繊維を原子レベルで見た場合、一様な太さではなくで
こぼこするのと、酸素の2重結合により電荷の分極が生じるため、繊維がからみやすくなることが考えられます。
- 比重
1.13から1.15とポリアセタールの1.41と比較して軽くなります。これは水素の比率が増えたためと思われます。
- 吸水率
1.1から1.15%とポリアセタールの0.22%と比較して大きくなります。繊維の隙間が大きくなるためと思われます。
- 連続使用温度
105℃とポリアセタールの105℃と比較して同じです。
- ポリエーテルケトン(記号 PEEK)
ポリエーテルケトンにはポリエーテルケトン(PEK)とポリエーテルエーテルケトン (PEEK)の2種類がありますが、機械材料
としてはPEEKが一般的です。
図20-6にPEEKの分子構造を示します。この分子構造はスーパーエンプラと呼ぶにふさわしい構造をしています。
特徴的な構造は炭素が六角形に結合したベンゼン環で構成されている点です。この構造は3個の電子を六個の
炭素で供給する特殊な構造です。この構造は紫外線等のエネルギーを強く吸収しますが、壊れにくい特性がありま
す。また、分子間の結合を強めたりする特性があります。また、原子レベルでみれば太さのでこぼこは大きくなり、
また、酸素の2重結合による電荷の分極もあります。
従って、この分子構造の繊維は強くからみあい、機械強度が増大すると思われます。
表20-3にポリアミド(記号 PA)の特性例を示します。
表20-3 ポリアミド(記号 PA)の特性例
項目 | 単位 | 測定値 |
引張り降伏強さ | MPa | ― |
引張り破断強さ | MPa | 100 |
引張り破断伸び | % | 20 |
曲げ強さ | MPa | 173 |
曲げ弾性率 | MPa | 4100 |
圧縮降伏強さ | MPa | 121 |
比 重 | ― | 1.32 |
吸水率(水中24Hr) | % | 0.14 |
連続使用温度 | ℃ | 250 |
燃焼性 | ― | UL94 V-0 |
体積固有抵抗 | Ω・cm | 1016 |
表20-4において
- 引張破断伸び
20%とポリアセタールの75%と比較するとやや劣ります。
- 曲げ弾性率
4100MPaとポリアセタールの2640MPaと比較して大きくなっています。これは、図20-6に示す分子構造で繊維がからみやすく
なることが考えられます。
- 比重
1.32とポリアセタールの1.41と比較して軽くなります。
- 吸水率
0.14%とポリアセタールの0.22%と比較して小さくなります。
- 連続使用温度
250℃とポリアセタールの105℃と比較して大幅に高くなります。
- ポリフェニレンスルファイド(記号 PPS)
ポリフェニレンスルファイド(PPS)は、ベンゼン環と硫黄原子が交互に結合した単純な直鎖状構造を持つ、結晶性の
熱可塑性樹脂に属する合成樹脂。
図20-7にPPSの分子構造を示します。この分子構造はスーパーエンプラと呼ぶにふさわしい構造をしています。
特徴的な構造は炭素が六角形に結合したベンゼン環と硫黄で構成されている点です。ベンゼン環は優れた特性を示し
ますが、さらに硫黄が加わっています。
硫黄は酸素と同じ2価の元素ですが、酸素と異なる点は原子量が大きく、2価値以上の結合が可能となる点です。このため結
合力が増すと考えられます。
表20-5にポリフェニレンスルファイド(記号 PPS)の特性例を示します。
表20-5 ポリフェニレンスルファイド(記号 PPS)の特性例
項目 | 単位 | 測定値 |
引張り降伏強さ | MPa | ― |
引張り破断強さ | MPa | 120 |
引張り破断伸び | % | 1 |
曲げ強さ | MPa | 165 |
曲げ弾性率 | MPa | 12000 |
圧縮降伏強さ | MPa | 170 |
比 重 | ― | 1.6 |
線膨張係数 | ×10-5/℃ | 2.2 |
吸水率(水中24Hr) | % | <0.02 |
連続使用温度 | ℃ | 220 |
燃焼性 | ― | UL94 V-0 |
体積固有抵抗 | Ω・cm | 1016 |
表20-5において
- 引張破断伸び
1%とポリアセタールの75%と比較すると大幅に減少します。
- 曲げ弾性率
12000MPaとポリアセタールの2640MPaと比較して大幅に大きくなっています。これは、図20-7に示す分子構造で
繊維がからみやすくなることが考えられます。
- 比重
1.6とポリアセタールの1.41と比較して重くなります。
- 吸水率
0.02%とポリアセタールの0.22%と比較して小さくなります。
- 連続使用温度
220℃とポリアセタールの105℃と比較して大幅に高くなります。
- 強化プラスチック
強化プラスチックとはガラス繊維や炭素繊維で強化したプラスチックです。さまざまな種類があり、その全貌を知るのは
困難ですが、一例としてレニー(RENY)三菱ガス化学を紹介します。
レニー(RENY)は、ポリアミドMXD6をガラス繊維、無機質フィラー、炭素繊維等で強化した樹脂で、多くのグレードがあります。
表20-6にレニー(RENY)の特性例を示します。
表20-6 レニー(RENY)の特性例
| | 一般用 | 高強度用 | 難燃用 | 高剛性・制振 | 炭素繊維強化 |
| グレード | 1002H | 1025 | 1501AH | N252 | C36 |
| | ガラス繊維強化 | ガラス繊維 | ガラス繊維強化 | ガラス・ミネラル | 炭素繊維強化 |
項目 | 単位 | | 強化 | | 併用強化 | |
密度 | g/cm3 | 1.46 | 1.67 | 1.56 | 1.72 | 1.35 |
吸水率 | % | 1.5 | 1 | 1.2 | 1.1 | 1.4 |
引張弾性率 | MPa | 12100 | 19600 | 13300 | 25700 | 27200 |
破壊応力 | MPa | 181 | 275 | 162 | 174 | 249 |
破壊ひずみ | % | 1.7 | 1.9 | 1.6 | 1.1 | 1.2 |
曲げ強さ | MPa | 286 | 436 | 251 | 289 | 411 |
曲げ弾性率 | | 11600 | 18800 | 12100 | 21900 | 23400 |
シャルピー衝撃強さ | kJ/m2 | 35 (33) | 77 (82) | 37 (29) | 31 (33) | 45 (48) |
荷重たわみ温度 | ℃ | 224 | 231 | 220 | 227 | 224 |
燃焼性 | - | HB | HB相当 | V-0 | HB | HB |
表20-6において高強度用(グレード1025)を例にとれば
- 引張弾性率
19600MPaと一般樹脂の約10倍です。
- 破壊応力
275MPaと金属並の強度です。
- 荷重たわみ温度
231℃であり、耐熱性もあります。
強化プラスチックは表20-6に示すとおり非常に優れた特性です。しかし、一般にはうまく使いこなせていません。あまりにも種類
が多く、機械加工用材料としてはなじみがありません。これらの材料は射出成型を前提とした材料と思われます。射出成型は大
量生産向きで少量生産には不向きです。
21章:塗装の話に行く。
トップページに戻る。