23章:接着剤の話(2)
作成2012.03.07
- 充填材料の活用例
接着剤とは用途が異なるのですが、隙間をふさぎたい場合があります。私毎ですが、家の新築間もないころ台風の時に雨漏りがあり
ました。日本家屋は、柱、壁、床、天井等に木材を使っています。これらの木材を雨から守っているのが、屋根の瓦と外壁です。瓦や外
壁は雨が上から下に向かって降るときは、問題がないのですが強い横風を伴った場合に必ずしも十分で無い場合があります。
瓦や外壁の間には隙間があり、強い横風とともに雨が染み込んできました。木材は湿気に弱いので放置できません。こんなときに役立
つの充填材料です。
台風が去った後、雨の進入経路と推定される隙間をシリコンゴムの充填材料でふさいだところ、台風による雨漏りはなくなりました。瓦や
外壁の間には多くの隙間があり、その全てをふさぐのは大変ですが、雨漏りの箇所から大まかな場所は推定できます。しかし、厳密にどの
隙間なのか?これは特定できませんでした。推定の範囲の隙間を充填しました。
というわけで、シリコンゴムの充填材料は大変役に立ちました。シリコンゴムの充填材料はホームセンター等で容易に入手できるのです
が、ここでは、シリコンゴムの充填材料の分子構造と硬化原理について検討してみたいと思います。
シリコンゴムはジメチルポリシロキサンの分子構造を持ちシロキサン結合が5000〜10000の直鎖構造分子です。シロキサン結合が2000
以下の直鎖構造の分子はオイルの性質を示します。
- 脱水縮合反応型シリコンゴム
図23-1に両端シラノールジメチルポリシロキサンの分子構造を示します。両端にOH基があり、脱水縮合反応を起こし重合する性質が
あります。
脱水縮合反応型シリコンゴムは両端シラノールジメチルポリシロキサンを微量の溶剤で溶かしたものです。溶剤と水分の蒸発により、
硬化しますが、密閉空間では、蒸発が起こらないため硬化しません。
- 付加重合型シリコンゴム
図23-2に付加重合型シリコンゴムの反応例を示します。
付加重合型シリコンゴムは両端ビニルジメチルポリシロキサンと両端ハイドロイドジメチルポリシロキサンが反応して硬化します。
付加重合型シリコンゴムは反応に溶剤や水分の蒸発を必要としません。このため、密閉空間で硬化します。ただし、この反応には
、微量の触媒添加と加熱が必要となります。
触媒としては、図23-3 白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(CAS 68478-92-2)のキシレン溶液等を用います。
錯体は金属に有機物が配置結合した分子構造で溶剤に溶解することができます。(金属単体ですと溶剤に溶解しません。)
付加重合を促進するには、微量の白金錯体を混合する必要があります。
- 難接着性材料
難接着性材料としては、テフロン、ポリエチレン、ポリポロピレン、シリコンゴム等があります。
図23-4にテフロン、図23-5にポリエチレン、図23-6にポリポロピレン、図23-7にシリコンゴムの分子構造を示します。
これらに共通する分子構造は何でしょうか?共通項は繊維状分子の表面がフッ素、または水素原子で包まれているためでしょう
か?フッ素と水素原子は1価の原子で繊維状の結合ができません。おそらく、フッ素と水素原子が他の分子との結合をじゃまするのでしょう。
テフロン、ポリエチレン、ポリポロピレン、シリコンゴムとも有機溶剤に溶けません。
- 溶剤で接着できる材料
樹脂の中には溶剤で溶かし、溶剤を揮発させることにより接着できる材料があります。溶剤で接着できる材料としては、ポリ塩化ビニル、
ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMAアクリル)、ポリカーボネート、AAS樹脂等があります。
図23-8にポリ塩化ビニル、図23-9にポリスチレン、図23-10にPMMAアクリル、図23-11にポリカーボネートの分子構造を示します。
また、 AAS樹脂は)とはアクリロニトリル 、アクリルゴム、スチレン 共重合合成樹脂であるため、ポリスチレンやアクリル同様に溶剤で溶
ける性質があると思われます。
さて、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMAアクリル)、AAS樹脂はアセトン等の極性非プロトン性溶剤に溶け
る性質があります。
また、ポリカーボネートはトルエン 等の芳香族炭化水素溶剤に溶ける性質があります。
AAS樹脂は、鉄製ポールの被覆材として良く用いられます。 AAS樹脂の接着材の例としては、極性非プロトン性溶剤である1,3-ジオキソ
ランとシクロヘキサノンの混液があります。
ところで、難接着性材料と溶剤で接着できる材料の分子構造上の違いは、何でしょうか?ポリ塩化ビニルは塩素がむき出しになっていま
す。ポリスチレンはベンゼン環があり、水素で完全には覆われていません。 PMMAアクリルは酸素がむき出しになっています。ポリカーボネートは
ベンゼン環と酸素がむき出しになっています。
熱成型において、難接着性材料は加熱してもあまり柔らかくなりません。熱成型がやりにくい性質があります。これに対して、溶剤で接
着できる材料は加熱すると柔らかくなり熱成型がやりやすい性質があります。
ポリカーボネートは機械的強度が優れ、熱成型がやりやすいため、CDやDVDのパターン熱転写に応用されています。
欠点としては、熱や溶剤には弱い性質があります。
- 常温硬化型アクリル系接着剤
アクリルの接着においては、アクリル系接着剤が有効ですが接着作業性を考えると常温硬化型アクリル系接着剤が有効です。具
体的な常温硬化型
アクリル系接着剤はセメダイン株式会社で製造・販売していますが、ここでは常温硬化型アクリル系接着剤の硬化原理について考えて
みたいと思います。
常温でラジカルを発生させる反応としては、レドックス重合反応があります。これは、金属イオンと過酸化物の反応により、OHラジカル
が発生する反応です。
A液に金属イオンを含む材料、B液に過酸化物を含む材料を混合した場合、使用直前にA液とB液を混合するとレドックス重合反応が
起こり、 OHラジカルが発生してラジカル重合反応を起こします。
金属イオンを含む材料としては、有機材料との混合性の良い錯体を用います。錯体の一例としては、ビス(2,4-ペンタンジオナト)銅(II)
CAS番号 : 13395-16-9 等があります。
過酸化物も有機材料との混合性の良い有機過酸化物を用います。有機過酸化物の一例としては、クメンヒドロペルオキシドCAS番号 :
80-15-9 等があります。
錯体を金属イオンにするため、2-メルカプトベンゾイミダゾールCAS番号 : 583-39-1 をB液に混合します。こんなややこしいことをする
のは、金属イオンを含む材料が樹脂に溶解しないためです。
- 嫌気性接着剤
嫌気性接着剤とは、ロックタイトのようなネジの緩み防止接着剤のことです。
なぜ?嫌気性接着剤と呼ぶのでしょうか?これは、酸素が遮断された領域が硬化するためですが、なぜでしょう?
嫌気性接着剤にはクメンヒドロペルオキシドのような、有機過酸化物のみが混合されています。ネジの部分に嫌気性接着剤を滴下す
るとネジの鉄イオンに触れた部分のみでラジカルが発生します。また、ラジカル重合は酸素に触れた部分は反応が阻害される性質が
あります。
嫌気性接着剤はラジカルの発生を促進する金属イオンが含まれていないため、金属に触れた部分のみが硬化します。反応性が弱い
ので、空気が遮断された部分のみが硬化する訳です。
常温硬化型アクリル系接着剤では、どうでしょうか?材料全体でラジカルが発生し、全体が硬化するわけですが、空気に触れた最表
面は硬化しません。しかし、硬化しない体積は極僅かです。
もし、ネジの緩み防止に瞬間接着剤をつかったらどうでしょうか?水分が起爆剤となり瞬間的に硬化します。ネジの緩み防止としては十分に機
能をはたすでしょう。
また、瞬間接着剤も最表面は硬化しません。しかし、硬化しない体積は極僅かです。
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