24章:接着剤の話(3)
作成2012.03.22
接着の機械的強度信頼性は、接着剤の種類、被接着物の材質、被接着物の表面状態等に大きく依存します。これらの組合
せの理解が難しいため、機械設計においてはあまり接着を
多くもちいません。しかし、接着が望ましい場合があります。
- 接着の積極的利用
- 高精度部品の固定
図24-1に示すような高精度の光学部品を直接ボルト等で固定すると、締付の力により光学部品が歪んでしまします。
このような場合、光学部品を固定板等に接着し固定板をボルトで固定します。
このような構造にすると、締付の力による変形を接着剤が吸収し、光学部品の変形を防止します。
通常、光学部品はガラスであり、固定板は金属です。この組合せにおいて、接着剤は2液混合型のエポキシ系接着剤が最適です。
- ケミカルアンカー
ケミカルアンカーの構造を図24-2に示します。ケミカルアンカーはコンクリートに全ネジボルトの直径よりやや大きめの穴を開
けます。この穴に2液混合型のエポキシ系接着剤を充填し、全ネジボルトをいれ接着固定します。
この構造において、コンクリートは多孔質で接着剤が染み込んで一体化します。全ネジボルトは通常ステンレスを用いますが、
接着剤は染み込みません。しかし、全体にネジが切ってあるため、接着剤自体が破壊しない限り抜けることはありません。
ケミカルアンカーにおいて、材料強度はスレンレス、接着剤、セメントの順となります。従って、図24-2に示すケミカルアンカー
において、非常に大きな負荷がかかった場合に、破壊するのはセメントとなります。接着部から剥がれることはありません。
この例で示すように、ケミカルアンカーは、接着の理想構造です。
- ボルトとナットの緩み防止
図24-2に示すケミカルアンカーにおいて、固定板をボルトとナットで固定します。通常条件では、ボルトとナットは緩まないのです
が、長期にわたり振動が加わる条件において、緩むことがあります。
ボルトとナットの緩み防止に有効なのが、ロックタイトのような、嫌気性接着剤です。また、アロンアルファーのような瞬間接着剤も
有効です。
ボルトとナットの緩み防止においては、接着剤自体に大きなせん断力は働きません。接着剤の機械的強度よりも、接着作業性
の方が重要となります。
- 多孔質材料と緻密材料の接着性の比較
多孔質材料と緻密材料の接着性の比較を図24-3に示します。
- 多孔質材料の接着
図24-3(a)に示すように多孔質材料においては、接着剤が隙間に染み込み一体化します。このため、強固な接着が容易に行えま
す。このような材料としては、セメント、セラミック、木材、紙等があります。また、金属のように緻密な材料でもエッチング処理等
により、表面を多孔質に変えることが可能な場合はあります。
多孔質材料の接着は、隙間に接着剤が浸透して一体化するため、材料の物性とは無関係に接着できます。
- 緻密材料の接着
図24-3(b)に示すように緻密材料においては、接着剤が材料の間に染み込みません。表面に複雑な凹凸がある場合は、多
孔質材料と類似の接着性が得られますが、滑らかな平面の場合、被接着材料と接着剤の接着性が問題となります。
この場合、被接着材料の表面状態と接着剤の相性があるわけですが、なぜ?相性が生じるのか?なかなか難しい課題です。
このような材料としては、金属、ガラス、プラスチック等があります。プラスチックは種類も多く、特性もさまざまです。
- ガラスの接着
ガラスは緻密で透明なため、光学部品等に多く使用されます。ガラスの主成分はSiO2です。さて? SiO2はなぜ?気
体とならず固体となるのでしょうか?固体の条件は分子間に十分な結合力があり、熱運動によりバラバラにならず一定
の位置を保っているためでしょう。
なぜ?このような分子間力が働くのか?推論してみましょう!!図24-4にSiO2の分子構造を示します。図24-4からは、
Siがプラス、Oがマイナスに帯電し分子間で電気的な引力が働くことが予測できます。しかし、分極による電気的引力だ
けで、強固な固体となるでしょうか?
SiO2の分子間引力を説明するには、分子構造図だけでは不十分で、電子配置図を作成する必要が生じます。
- シリコンの電子配置図
図24-5にシリコンの電子配置図を示します。図24-5において、第1軌道と第2軌道は省略し、最外周の第3軌道のみを
記載してあります。第3軌道には、電子を収納できる席が3sに2個、3pに6個、3dに10個あります。
s席を赤、p席を緑、d席を青でしめします。色で塗りつぶしてあるのは電子が収まっていることを示します。塗りつぶして
ないのは空席です。空席は3pに4個、3dに10個あることがわかります。空席は不安定な状態で、電子を収めようとする作用が生じます。
- 酸素の電子配置図
図24-6に酸素の電子配置図を示します。図24-6において、第1軌道は省略し、最外周の第2軌道のみを記載してあり
ます。第2軌道には、電子を収納できる席が2sに2個、2pに6個あります。空席は2pに2個あります。空席は不安定な状態
で、電子を収めようとする作用が生じます。
- SiO2の電子配置図
図24-7にSiO2の電子配置図を示します。シリコンと酸素は互いに空席を埋めるように電子を共有しようとします。この結
果、図24-7に示すような電子配置図となります。この結合は互いに電子を共有しあうため共有結合といいます。共有結合は
非常に強い結合となります。
- SiO2分子結合の電子配置図
図24-8にSiO2分子結合の電子配置図を示します。 SiO2分子はシリコンの3dの空席10個を埋めるように分子間引力が作
用し、図24-8に示すような電子配置となります。この結合の例では、 3dの空席10個中8個が埋まることになります。
この結合は一方的な電子の共有で配置結合といいます。配置結合は共有結合と比較して、弱い結合となります。
原子や分子の結合は、空席を互いに埋めあうように配置することによって生じると考えられます。
従って、原子や分子の結合を理解するには、分子構造図だけでは不十分で、電子配置図が必要となります。
しかし、複雑な構造の分子の電子配置図は複雑になりすぎるため、通常は分子構造図を用います。
なぜ?SiO2が強固な固体となりうるのか?これは、シリコンの3s空席10個が酸素の2p電子4個を配置結合するためとおもわ
れます。図24-8の例では3s空席10個中8個が埋まります。
- 表面活性化
SiO2は安定した物質であり、安定状態においては他の材料と化学反応をおこしません。化学反応を起こしやすくするには、エ
ネルーギーを与えて表面を活性化する必要があります。
図24-9に表面活性化による分子構造の変化を示します。図24-9(a)はSiO2の安定状態です。シリコンと酸素の2重結合部
にエネルギーが作用すると結合がきてて不安定状態となります。この状態を図24-9(b)に示します。結合が切れた状態は不
安定で空気中の水分と反応すると図24-9(c)に示す状態に変化します。
図24-9(c)の状態は準安定状態ですが、他の材料と反応を起こしやすい状態です。
図24-9(c)の分子構造は、図23-1に両端シラノールジメチルポリシロキサンの分子構造と同じ構造をしており、脱水縮合
反応をおこします。
従って、脱水縮合反応型の接着剤とよく結合することになります。また、この構造はエポキシ系接着剤とも良く接着します。
ただし、ラジカル重合型接着剤とは反応しません。
ガラスは表面活性化により、
・脱水縮合反応型の接着剤とよく結合します。
・エポキシ系接着剤よく結合します。
・ラジカル重合型接着剤はあまり結合しません。
- カップリング処理
表面活性化処理後、カップリング剤を塗布すると表面を特定の反応基に置き換えることができます。
カップリング処理の詳細については、「ナノインプリントの材料とプロセス」で詳しく説明しています。
ガラスは表面活性化とラジカル系シランカップリング剤により、
・ラジカル重合型接着剤と良く接着します。
ガラスは表面活性化とエポキシ系シランカップリング剤により、
・エポキシ系接着剤よく結合します。
ガラスは、使用する接着剤にあわせ適正な表面処理をほどこすことにより、強固な接着状態を得ることができる材料です。
- 金属の接着
代表的な金属としては、クロム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等がありますが、接着に関しては類似の性質があり、表面処理により接着強
度をある程度高めることができますが、ガラスほどの接着強度には達しません。
なぜ?金属の接着が難しいのか?少し検討してみたいと思います。
図24-10にZnの電子配置図を示します。図24-10において、第1軌道、第2軌道、第3軌道は電子で満たされており、記載を省略し
ています。第4軌道は4sに2個の電子が満たされています。4pは6個全て空席、4dは10個全て空席、4fは14個全て空席です。空席
の記載は省略しています。
ここで、4sの電子は原子半径から飛び出しており、自由に動きだしてしまう性質があります。これを自由電子といいます。自由
電子は物体内を自由に動きまわれるため、特定の原子核に固定することなく、全体の原子核で共有された状態となります。この
ような結合を金属結合といいます。
クロム、鉄、ニッケル等は3dに空席がありますが、4sにはZn同様2個の電子があります。この4sの2個の電子が金属として類似の
特性を引き起こしていると思われます。
亜鉛はトタン等メッキ用材料として用いられますが、酸素、水酸、炭酸等と容易に反応し反応物を形成します。
図24-10に亜鉛化合物の分子構造を示します。亜鉛は2個の自由電子を持ち簡単に電子を手放す性質があります
。(a)酸化亜鉛において亜鉛はプラスに帯電し、酸素はマイナスに帯電します。この結合はイオン結合であり、共有結合よ
りも弱い結合となります。(b)水酸化亜鉛では2個の水酸イオンがマイナスに帯電します。(c)炭酸亜鉛では炭酸イオンが
マイナスに帯電します。
亜鉛の表面は反応しやすく、表面は空気中に含まれる水酸イオンや炭酸イオンと反応し化合物となります。
このような性質は、ほとんどの金属に共通する性質です。水酸イオンは脱水縮合反応型接着剤やエポキシ系接着剤と結合
反応を起こします。従って、強固な接着が可能なはずですが、イオン結合は、共有結合と比較して弱い結合です。このため
、ガラスのように強固な接着とはなりません。
水酸イオンはラジカル重合型接着剤と結合反応をおこしませんが、カップリング処理をほどこすと結合できます。
金属は
・脱水縮合反応型の接着剤と結合します。
・エポキシ系接着剤結合します。
・ラジカル重合型接着剤は結合しません。
ただし、ガラスと比較すると弱い接着力となります。
・カップリング処理を行うとラジカル重合型接着剤と接着します。
ただし、ガラスと比較すると弱い接着力となります。
多くの場合、金属の接着力はほどほどの接着力となります。ケミカルアンカーの例の様に表面形状に凹凸をもたせ形状的
に剥がれにくくするのが、安全な接着方法といえるでしょう。
- プラスチックの接着
プラスチックの種類と特性はさまざまで、接着が容易なプラスチックと困難なプラスチックがあります。
- 難接着性材料
難接着性材料としては、テフロン、ポリエチレン、ポリポロピレン等があります。
これらの樹脂は溶剤にも溶けず、化学反応的にも安定で、接着剤と結合しません。これらの材料を接着する場合は、ケ
ミカルアンカーの例の様に表面形状に凹凸をもたせ形状的に剥がれないようにする必要があります。
- 溶剤で接着できる材料
溶剤で接着できる材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMAアクリル)、ポリカ
ーボネート、AAS樹脂等があります。
これらの樹脂は、溶剤で溶かし溶剤を揮発させることにより接着できます。
- カップリング処理が可能な材料
プラスチックの主骨格にC−O結合を多く含む材料(ポリエステル等)は、活性化処理後カップリング剤を塗布することに
より、カップリング処理が可能です。
カップリング処理剤の種類を選択することにより、エポキシ系接着剤やラジカル系接着剤と接着できます。
プラスチックの接着は種類により接着の難易度が全く異なります。接着が容易な材料は化学的に不安定な材料が多く
なります。溶剤や酸、アルカリ等の薬品に安定な材料は、難接着性材料となるでしょう。
目的により、使いわけるきりありません。
25章:メッキの話に行く。
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