33章:燃焼で発生する有害物質

    作成2012.05.14
     自然界は巧みな仕組みで物質が循環しています。しかし、文明においては、物質の循環が崩れる場合もあります。


  1. 物質の循環
     自然界においては、太陽のエネルギーで海水等が蒸発し、雲となり雨となって陸地に降りそそぎます。降った 雨は川を流れ海に到達します。
     植物は、水と二酸化炭素を原料として太陽のエネルギーを得て、炭水化物と酸素を生産します。草食動物は炭水化 物と酸素をエネルギー源として活動し、水と二酸化炭素を放出します。自然界においては、物質は循環するため大き な移動はありません。
     文明社会においては、人々は都市を形成し、さまざまな物資が都市に運び込まれ消費されます。消費されたあとさま ざまな廃棄物が生じます。
     さまざまな廃棄物を適正に処理して、適正に循環させるシステムの構築は意外と難しいことに気づきます。


  2. 不完全燃焼で発生する有害物質
     酸素が不足したり、低温の場合は不完全燃焼となります。
    1. 一酸化炭素
       一酸化炭素の主な特徴は
      ・一酸化炭素(Carbon Monoxide)は、常温・常圧で無色・無臭・可燃性の気体。一酸化炭素中毒の 原因となる。化学式は CO と表される。
      ・一酸化炭素は、水にはほとんど溶けない。
      ・一酸化炭素は酸素の約250倍も赤血球中のヘモグロビンと結合しやすい。
      ・1時間の暴露では、500ppmで症状が現れはじめ、1000ppmでは顕著な症状、1500ppmで死に至るとされてい る。一酸化炭素中毒を自覚するのは難しく、危険を察知できずに死に至る場合が多い。
       とあり、非常に毒性の強い気体です。

       図33-1に一酸化炭素の電子配置をしめします。図33-1において、緑が炭素の電子、青が酸素の電子です。
       図33-1から明らかなように、炭素と酸素は2組の共有結合と2個の配置結合で結ばれています。孤立した電子が炭素と酸素とも2個あります。
       この結合状態において、2個の配置結合は不安定であり、容易に結合が切れる性質があります。結合が切れた分子は他の分子と容易に 結合します。
       このため、一酸化炭素はヘモグロビンと結合しやすく、毒性が高いガスとなります。


    2. スス(黒煙)・油煙
       不完全燃焼においては、スス(黒煙)・油煙が大量に発生します。
       直径3-500nm程度の炭素の微粒子、表面には様々な官能基が残存した複雑な組成を持ち、いわゆる無定形炭素と呼ばれる。
       スス(黒煙)・油煙は汚れの主原因となります。

    3. ダイオキシン
       ダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)は、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン (PCDD)、 ポリ塩化ジベンゾフラン (PCDF)、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル (DL-PCB) の総称である。これらは塩素で置換された2 つのベンゼン環という共通の構造を持ち、類似した毒性を示す。
       ダイオキシン類は塩素を含む物質の不完全燃焼で生成する。
       2,3,7,8-TCDDはダイオキシン類の中では最も毒性が高く、IARCにより「人に対する発がん性がある」と評価 されている。マウスでの動物実験では催奇性が確認されている。
       常温で、無色の固体。蒸発しにくく、水には溶けにくいが、油脂類には溶けやすい。


  3. 完全燃焼で発生する有害物質
     廃棄物にはさまざまな物質が含まれており、完全燃焼したとしてもさまざまな有害物質が発生する可能性があります。
     植物の育成には、窒素、りん酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、マンガン、ホウ素、銅、モリブデン、珪酸等 が必要といわれています。これらの物質は微量ですが、野菜等に含まれています。料理の味付けには塩化ナトリウムが使用され ます。生ごみにはこれらの物質が含まれていることになります。
     廃棄物には、さらに多くの物質が含まれる可能性があります。これらの廃棄物を完全燃焼させたとしても、さまざまな 有害物質が発生するのは避けられません。

    1. 水素の燃焼
       水素が完全燃焼すると水になります、これは完全に無害です。

    2. 炭素の燃焼
       炭素が完全燃焼すると二酸化炭素となります。毒性はなく、植物の育成には不可 欠な物質ですが、地球温暖化の原因になるといわれています。

    3. 窒素の燃焼
       物質が燃焼するときにも一酸化窒素や二酸化窒素などが発生する。この場合、高温・高圧で燃焼することで本来 反応しにくい空気中の窒素と酸素が反応して窒素酸化物になる。
       窒素酸化物は一酸化窒素 (NO)、二酸化窒素 (NO2)、亜酸化窒素 (N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素 (N2O4) 、五酸化二窒素 (N2O5) などがあります。
       一酸化窒素 (NO)は酸素に触れると直ちに酸化されて二酸化窒素 NO2 になる。
       二酸化窒素 (NO2)は水と反応して、硝酸や亜硝酸が生成する。
       亜酸化窒素 (N2O) )は窒素酸化物の一種で、吸入すると陶酔効果があることから笑気ガス(しょうきガス) とも呼ばれる。水への溶解度が60.82 mL /100 mL ( 24°C)と大きい。
       三酸化二窒素(N2O3)は水に溶けると亜硝酸となる。
        四酸化二窒素 (N2O4)は水と反応して、硝酸や亜硝酸が生成する。
       五酸化二窒素 (N2O5)は水と反応して硝酸となる。
       窒素酸化物は水に良く溶解し、水溶液は酸性となります。

    4. 硫黄の燃焼
       硫黄酸化物(sulfur oxide)は、一酸化硫黄 (SO)、二酸化硫黄 (SO2)、三酸化硫黄 (SO3) などがあります。
       一酸化硫黄 (SO)は空気中で即座に酸化され二酸化硫黄 (SO2)となる。
        二酸化硫黄 (SO2)は水と反応し、亜硫酸を生成する。亜硫酸は溶存酸素と反応し、硫酸となる。
       三酸化硫黄 (SO3) は水と反応し、硫酸を生成する。
       硫黄酸化物は水に良く溶解し、水溶液は酸性となります。

    5. リンの燃焼
       十酸化四リン (P4O10) となります。(五酸化リンとも呼ばれる。)十酸化四リン (P4O10) は水と反応し、リン酸を生成する。
       リン酸化物は水に良く溶解し、水溶液は酸性となります。

    6. 食塩(塩化ナトリウム)の燃焼
       食塩(塩化ナトリウム)は化学的に安定で容易には燃焼しないといわれていますが、硫化鉄等の金属塩との混合 状態で塩化水素(HCl)と塩素ガス(Cl2)を発生します。
       塩化水素(HCl)は水に溶けて塩酸となります。

    7. フッ素の燃焼  フッ素化合物が燃焼するとフッ化水素(HF)となります。フッ化水素(HF)は水に溶けてフッ酸 となります。(フッ酸はとても危険な酸です。)

       十分酸素を供給し完全燃焼させたとしても、さまざまな有害物質が発生することになります。完全燃焼で発生する有害物質 は共通して、水に良く溶解し酸性となる性質があるようです。


     
  4. 完全燃焼後の残りかす
     完全燃焼しても、残りかすが無くなるわけではありません。金属塩、アルカリ金属の酸化物等は灰として残ります。
     灰の水溶液はアリカリ性を示すでしょう。これは、完全燃焼で発生する有害物質を中和する性質があります。中和後 は、中性の金属塩となります。
     これらは、 、窒素、りん酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、マンガン、ホウ素、銅、モリブデン、 珪酸等を豊富に含み良い肥料になるはずです。


     
  5. 適正な物質の循環
    1. 完全燃焼システムの構築
       生ごみのように多くの水分を含む廃棄物を燃焼させると不完全燃焼します。
       水分を多く含む廃棄物の十分な乾燥が必要です。
    2. 完全燃焼で発生する有害物質の捕捉
       完全燃焼でも多くの有害物質が発生します。これを十分捕捉するシステムが必要です。
    3. 有害物質の中和
       捕捉した有害物質を中和する必要があります。中和には完全燃焼後の灰が有効です。
    4. 中和液の濃縮・乾燥
       濃縮・乾燥して運搬・保管が容易にする必要があります。
    5. 中性金属塩の活用
       肥料として活用できるはずです。
    6. 燃焼によるエネルギーの活用
       燃焼によるエネルギーで発電ができるはずです。









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