34章:燃焼で発生する有害物質の測定

    作成2012.05.14
     文明社会において発生した廃棄物の多くは焼却処理されます。焼却炉は燃焼で発生する有害物質を完全に無害化処理する必要がありますが、 燃焼で発生する有害物質を正確に測定する必要があります。


  1. 各種物質の測定方法
     燃焼で発生する有害物質の多くは赤外線吸収分析で測定できますが、酸素、ダイオキシン等は測定できません。
     酸素ガスはジルコニア式酸素計または磁気式酸素分析計が用いられます。また、ダイオキシンの測定はガスクロマト グラフ質量分析装置(GC-MS)が用いられます。


     
  2. 赤外線吸収分析
     各種の物質は、特定の波長の光を吸収する性質があります。吸収波長は物質毎に固有の値をとることが多く吸収波長を分析 することにより、物質を特定できます。多くの物質は、軟X線から紫外線の間の波長で強く吸収されますが、軟X線から紫外線は 光のエネルギーが強いため分子を構成する原子間結合が破壊されます。
     これに対して、赤外線のエネルギーは小さいため、原子間結合は破壊されません。このため、赤外線で特定の波長で強 い吸収がある分子は分子構造を破壊することなく分子を特定できることになります。
     赤外線吸収分析方法としては
    1. 非分散型赤外線分析法
    2. 分散型赤外分光法
    3. フーリエ変換型赤外分光法
    等があります。


  3. 非分散型赤外線分析法
     特定の波長のみを透過されるフィルターを用いて、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、一酸化窒素等の濃度を測定します。
    1. 一酸化炭素
       4.7μm付近における赤外線吸収を測定します。
    2. 二酸化炭素
       4.3μmの波長を中心とする狭い波長域を測定します。
    3. 二酸化硫黄
       8.500〜8.834μmの赤外線を計測します。
    4. 一酸化窒素
       5.3 μm 付近における赤外線の吸収量を測定します。
    5. 二酸化窒素
       二酸化窒素は400nm 領域の光を吸収し分解して、一酸化窒素の再生とともに酸素ラジカルを発生します。二酸 化窒素は、一酸化窒素に分解して測定します。

     図34-1に非分散型赤外線分析法の原理図を示します。
     光源からでた赤外線は集光レンズで集光された後、干渉フィルターで特定波長のみを透過させます。
     干渉フィルターを通過した光は基準セルまたは、試料セルを通過して検出器に到達します。
     基準セルの気体は赤外線吸収の少ない理想的な空気です。これに対して試料セルには赤外線を吸収する気体 が含まれtいるため、基準セルと試料セルでは光量の差が生じます。
     光量差は、赤外線を吸収するガスの濃度が大きいほど大きくなります。
     光量差と濃度の関係はサンプルガスを用いることにより校正します。
     これで、対象ガスの濃度測定が可能となります。



  4. 分散型赤外分光法
     図34-2に分散型赤外分光法の原理図を示します。分散型赤外分光法では、回折格子で光を分散することにより連続的 なスペクトル分布を測定できます。
     光源からでた光は入射スリットで細い平行光線にします。
     基準セルまたは、試料セルを通過した光は回折格子で波長毎に異なる角度で反射します。
     検出器の直前には出射スリットがあり特定の波長のみを測定できます。
     回折格子が連続的に回転することにより、連続的なスペクトル分布が測定できます。
    利点
    (1)非分散型赤外線分析法と比較して、より正確な測定が可能。
    (2)多様なガスの分析・測定が可能です。
    (3)特別な演算処理を行うことなく、スペクトル分布が測定できます。

    欠点
    (1)入射スリットと出射スリットで検出器に入る光が制限され弱くなります。
    (2)精度の良い測定を行うためには、回折格子のスキャン速度を遅くする必要があります。(光が弱いため)



  5. フーリエ変換型赤外分光法
     図34-3にフーリエ変換型赤外分光法の原理図を示します。フーリエ変換型赤外分光法ではマイケルソン干渉計を用いて干 渉信号を検出します。
     光源からの光はマイケルソン干渉計で干渉した光となります。干渉光は基準セルまたは、試料セルを通過して検出器に入ります。
     移動鏡を移動すると干渉波形が変化するため、干渉波形をフーリエ変換するとスペクトル分布が得られます。
     フーリエ変換型赤外分光法では、入射スリットと出射スリットが不要であり、検出器に入る光は強くなり、高速スキャンが可能となります。
    (1)非分散型赤外線分析法と比較して、より正確な測定が可能。
    (2)多様なガスの分析・測定が可能です。
    (3)光の利用効率が良いため、高速スキャンが可能となります。

    欠点
    (1)スペクトル分布を得るためには、 、干渉波形をフーリエ変換する必要があります。



  6. 赤外線吸収分析のまとめ
    1. 一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、一酸化窒素のリアルタイム制御には、非分散型赤外線分析法が適します。
    2. 精密なガス分析・測定にはフーリエ変換型赤外分光法が最適です。
    3. 現在はパソコンの性能が大幅に向上しており、短時間でフーリエ変換の演算を行うことが可能です。
    4. 精密なガス分析・測定には、校正用サンプルガスのスペクトル分布と試料ガスのスペクトル分布のマッチング 演算が有効です。現在のパソコンはマッチング演算においても十分な性能があります。
    5. 非分散型赤外線分析法によるリアルタイム制御とフーリエ変換型赤外分光法による精密なガス分析・測定の併用がベストと思います。


  7. ジルコニア式酸素濃度計
     酸素ガスは赤外線吸収に特徴が無いため赤外線吸収以外の測定手段が必要となります。
     図34-4にジルコニア式酸素濃度計の原理図を示します。
     図34-4において、酸化ジルコニウム(ZrO2)の両側には白金電極が形成されています。
     検出部はヒーターにより700〜800℃に加熱されます。上側に高濃度O2ガス、下側に低濃度O2ガスを流し た場合、上と下で酸素濃度の差が生じます。
     白金の触媒作用と加熱により酸素ガスは酸素イオンに変化します。
     高濃度側と低濃度側で以下の反応がおこり、起電力が発生します。
    高濃度側: O2+4e → 2(O--)
    低濃度側: 2(O--) → O2+4e
     起電力は濃度差に比例するため、酸素濃度が測定できます。

     ジルコニア式酸素濃度計は以下の注意が必要です。
    1. 可燃性ガス(たとえば、メタン、アルコール、一酸化炭素等)が混入しますと燃焼反応を起こし測定誤差となります。
    2. 有機性シリカ(シーリング材等に使用)はセンサ劣化を起こします。
    3. 腐食性ガス(フッ素系ガス、塩素系ガス、硫酸系ガス・等)、被毒性物質(Si、Pb、P、Zn、Sn、等)が含まれるとセンサが劣化 する事があります。
    4. 一酸化炭素のように熱カロリーの高い物質が断続的に混入しますと熱履歴を受け白金電極の剥離等でセンサ不良を起こします。
    5. NOx、SOx等の腐食性ガスが多量に混入しますと白金電極の剥離等でセンサ不良を起こします。
    6. フレオンガスは高温化で酸素と不可解な反応を起こし測定誤差となる可能性があります。
    7. 水滴・ダスト・ミストは、センサの破損・短寿命及び、誤差の原因となります。



  8. 磁気式酸素濃度計
     図34-5に磁気式酸素濃度計の原理図を示します。
     酸素ガスは磁石に吸いつけられる性質があります。サンプルガスを左右に分けて流し、左側に磁石をおくと左側のサンプルガ スは磁石に吸いつけられます。このため、左右の流路で圧力差が発生します。
     補助ガスにN2を用い左右の流路に流すと流量差が生じます。流量差を左右のサーミスタで検知し酸素ガスの濃度を測定します。
    特徴
    1. ジルコニア式酸素濃度計では測定できない可燃性ガスを含む混合ガスも測定できます。
    2. 検出部のセンサには常に清浄な補助ガス(N2)が流れ、プロセスガスは流れませんので、プロセス ガス 中の汚れや腐食性ガスの影響を受けません。
    3. 補助ガス(N2)が必要となります。



  9. ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)
     ダイオキシンの分析・測定にはガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)が使用されます。ガスクロマトグラ フ質量分析装置(GC-MS)とは質量分析装置とガスクロマトグラフを合体させた測定器であり、熟練を要する測定装置です。

    1. 質量分析装置
       図34-6に質量分析装置の原理図を示します。
       質量分析を行うには、測定分子をイオン化することが不可欠な条件となります。
       サンプルガスをイオン化する方法としては、エネルギー粒子の衝突を利用しますが、電子線が多く用いられます。電子線の エネルギーは約90eV程度です。また、補助としてヒータによる加熱が行われます。
       しかし、分子構造を維持したまま、電子1個のみを除去してイオン化するのは困難です。
       電子線のエネルギーは分子構造を破壊するのに十分すぎるエネルギーですので分子はバラバラに破壊されさまざまな分 子量のイオンが発生することになります。
       発生したプラスイオンは加速器で加速され、出口スリットを通過し、直線的に飛行します。
       直線飛行のイオンが偏向磁界に到達すると磁界の影響で曲げられます。曲げられたイオンが検出スリットを通過して検出器に到達します。
       磁界によるイオンの曲率半径はイオンの質量に依存するため、質量分析が可能となります。
       質量分析装置はイオン化のさい、さまざまな質量のイオンが発生する問題があり、複合ガスの分析が難しいという問題があります。



    2. ガスクロマトグラフ
       質量分析装置の欠点を補う手法としてガスクロマトグラフが併用されます。
       図34-7にガスクロマトグラフの原理図を示します。ガスクロマトグラフの基本構造は非常に細く て長い管のみです。この管にキャリアガスと混合ガスを流すと出口では分子毎に出てくる時間が異 なり、整列してでてきる現象を利用します。
       構造は簡単ですが、メカニズムはちょっと難解です。おそらく表面における分子間引力が作用しているように思えます。
       結果的には、この方法で混合ガスサンプルを単独ガスサンプルにすることができます。



    3. ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)  ダイオキシンの分析・測定にはガスクロマトグラフ質量分析装置が有効ですが熟練を要し、測定時間は長くなります。







35章:燃焼で発生する有害物質の無害化に行く。

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