36章:燃焼灰の無害化処理と資源化
作成2012.05.30
有機化合物の多くは燃焼により気体に変化しますが、無機化合物の多くは燃焼により気体とはならず灰としてのこります。
- 燃焼灰の主成分
燃焼灰はあらゆる種類の無機化合物の混合物と考えることはできます。全ての無機化合物を列記することは困難ですが、主
な元素の物性と酸化物、水酸化物、酸、炭酸塩を整理した表を表36-1に示します。
表36-1 燃焼灰の主な元素の物性と酸化物、水酸化物、酸、炭酸塩
− | − | 密度 | 融点 | 沸点 | 酸化物 | 密度 | 融点 | 沸点 | 水溶性 | 水酸or酸 | 酸性 | 炭酸塩 | 水溶性 |
元素名 | 記号 | g/cm3 | ℃ | ℃ | 化学式 | g/cm3 | ℃ | ℃ | g/L | 化学式 | アルカリ性 | 化学式 | g/L |
リチウム | Li | 0.512 | 181 | 1342 | Li2O | 2.01 | 1570 | 2600 | 水と反応 | LiOH | 強アルカリ | Li2CO3 | 1.33 |
ベリリウム | Be | 1.85 | 1287 | 2469 | BeO | 3.02 | 2570 | 3900 | 0.2 | Be(OH)2 | 弱アルカリ | BeCO3 | 0.36 |
ホウ素 | B | 2.08 | 3927 | 3927 | B2O3 | 1.85 | 480 | 1680 | 2.2 | H3BO3 | 弱酸性 | − | − |
ナトリウム | Na | 0.968 | 98 | 883 | Na2O | 2.27 | 1132 | 1950 | 水と反応 | NaOH | 強アルカリ | Na2CO3 | 21.6 |
マグネシウム | Mg | 1.74 | 650 | 1091 | MgO | 3.65 | 3600 | − | 0.0086 | Mg(OH)2 | 弱アルカリ | MgCO3 | 0.101 |
アルミニウム | Al | 2.7 | 660 | 2519 | Al2O3 | 4.03 | 2032 | 2977 | 不溶 | Al(OH)3 | 酸・塩基に溶解 | Al2(CO3)3 | 不安定 |
ケイ素 | Si | 2.33 | 1414 | 2355 | SiO2 | 2.2 | 1650 | − | 不溶 | − | 中性 | − | − |
リン | P | 1.82 | 44 | 281 | P2O5 | 2.39 | 340 | 360 | 水と反応 | H3PO4 | 強酸性 | − | − |
カリウム | K | 0.86 | 63 | 759 | K2O | 2.35 | 350(分解) | 分解 | 水と反応 | KOH | 強アルカリ | K2CO3 | 112 |
カルシウム | Ca | 1.55 | 842 | 1484 | CaO | 3.55 | 2572 | 2850 | 水と反応 | Ca(OH)2 | 弱アルカリ | CaCO3 | 0.015 |
スカンジウム | Sc | 2.99 | 1541 | 2836 | Sc2O3 | 4.5 | 2000 | − | 酸に溶解 | H3O3Sc | ? | Sc2(CO3)3. | ? |
チタン | Ti | 4.51 | 1663 | 3287 | TiO2 | 構造による | 1870 | − | 不溶 | − | 中性 | − | − |
バナジウム | V | 6 | 1910 | 3407 | V2O5 | 3.56 | 690 | − | 0.8 | H2O2V | ? | − | − |
クロム | Cr | 7.19 | 1907 | 2671 | Cr2O3 | 5.22 | 2435 | − | 不溶 | Cr2O(OH)4 | ? | 特定不可 | 不溶 |
マンガン | Mn | 7.2 | 2061 | 2061 | MnO2 | 5.03 | 535(分解) | 分解 | 不溶 | Mn(OH)2 | 酸・塩基に溶解 | MnCO3 | 0.065 |
鉄 | Fe | 7.87 | 1538 | 2862 | Fe2O3 | 5.24 | 1566(分解) | 分解 | 不溶 | Fe(OH)2 | ? | CFeO3 | ? |
コバルト | Co | 8.9 | 1495 | 2927 | CoO | 6.1 | 1933 | − | 強酸に溶解 | Co(OH)2 | ? | CCoO3 | ? |
ニッケル | Ni | 8.91 | 2913 | 2913 | NiO | 6.67 | 1984 | − | 酸に溶解 | Ni(OH)2 | 酸・塩基に溶解 | NiCO3 | 0.0093 |
銅 | Cu | 8.94 | 1085 | 2562 | CuO | 6.31 | 1201 | 2000 | 酸・塩基に溶解 | Cu(OH)2 | 塩基に溶解 | CuCO3 | 不溶 |
亜鉛 | Zn | 7.14 | 420 | 907 | ZnO | 5.61 | 1975(分解) | 分解 | 1.6 | Zn(OH)2 | ? | ZnCO3 | ? |
ガリウム | Ga | 5.91 | 30 | 2403 | Ga2O3 | 6.44 | 1900 | − | 酸に溶解 | Ga(OH)3 | 酸・塩基に溶解 | ? | ? |
ゲルマニウム | Ge | 5.32 | 938 | 2833 | GeO2 | 6.24 | 400 | ? | 不溶 | − | 中性 | − | − |
ヒ素 | As | 5.73 | 615(昇華) | 615 | As2O3 | 3.74 | 312 | 465 | 20 | As(OH)3 | 両性 | − | − |
セレン | Se | 4.81 | 221 | 685 | SeO2 | 3.95 | 315(昇華) | 315 | 73.3 | H2SeO4 | 強酸性 | − | − |
臭素 | Br | 3.1 | -7.2 | 59 | − | − | − | − | − | HBr | 強酸性 | − | − |
ルビジウム | Rb | 1.53 | 39 | 688 | Rb2O | 3.72 | 500 | ? | 水と反応 | RbOH | 強アルカリ | Rb2CO3 | 225 |
ストロンチウム | Sr | 2.64 | 777 | 1382 | SrO | 4.7 | 2430 | 3000 | 水と反応 | Sr(OH)2 | 強アルカリ | SrCO3 | 0.0011 |
銀 | Ag | 10.49 | 962 | 2162 | Ag2O | 7.14 | 280(分解) | 分解 | 酸・塩基に溶解 | − | − | − | − |
カドミウム | Cd | 8.65 | 321 | 767 | CdO | 8.15 | 1559(昇華) | 1559 | 0.049 | Cd(OH)2 | ? | CdCO3 | ? |
ヨウ素 | I | 4.93 | 114 | 184 | − | − | − | − | − | HI | 強酸性 | − | − |
セシウム | Cs | 1.93 | 28 | 671 | Cs2O | 4.36 | 390 | 分解 | 水と反応 | CsOH | 強アルカリ | Cs2CO3 | 260.5 |
バリウム | Ba | 3.51 | 727 | 1897 | BaO | 5.72 | 1923 | 2000 | 3.48 | Ba(OH)2 | 強アルカリ | BaCO3 | 0.0024 |
白金 | Pt | 21.45 | 1768 | 3825 | − | − | − | − | − | − | − | − | − |
金 | Au | 19.3 | 1064 | 2856 | Au2O3 | 3.6 | 160(分解) | 分解 | 塩酸硝酸に溶解 | Au(OH)3 | 100℃以下で分解 | − | − |
水銀 | Hg | 13.53 | -39 | 630 | HgO | 11.14 | 500(分解) | 分解 | 不溶 | − | − | CHg2O3 | ? |
鉛 | Pb | 11.34 | 327 | 1749 | PbO | 9.53 | 886 | | 不溶 | Pb(OH)2 | 弱アルカリ | PbCO3 | 0.0001 |
表36-1には、主な元素の密度(比重)、融点、沸点が記載してあります。ここで特に重要な値は鉄(Fe)の融点1538℃です。鉄(Fe)は主要構造体の主成分であり、 1538℃以上で溶解し
流れ出します。燃焼温度を1550℃に設定した場合以下の3状態に分類されます。
(1)気体化する元素
臭素、ヨウ素、リン、ヒ素、水銀、セシウム、セレン、ルビジウム、カリウム、カドミウム、ナトリウム、亜鉛、マグネシウム、リチウム、ストロンチウム、カルシウムなど
(2)液体化する元素
ガリウム、鉛、アルミニウム、バリウム、ゲルマニウム、銀、金、銅、ベリリウム、ケイ素、コバルト、鉄、スカンジウムなど
(3)個体のままの元素
チタン、白金、クロム、バナジウム、マンガン、ニッケル、ホウ素など
- 気体化元素の分類
気体化した元素を冷却すると特定の温度で液体または個体に変化します。この特性を利用して、混合物を特定の元素に分類できます。
- 液体化元素の分類
液体化した元素は比重の違いから重たい元素は下、軽い元素が上に集まります。この特性を利用して、混合物を特定の元素に分類できます。
- 個体のままの元素の分類
1538℃以上で液体化、気体化しない元素は限られます。個体のままの元素は化学的な処理をほどこし分類します。
- 酸化物
燃焼は十分な酸素を供給して行います。このため、多くの元素の表面は酸化されます。酸化物の物性は変化します。
-
アルカリ金属は水に溶かすとアルカリ性となります。またハロゲン元素は酸となります。全体としては、アルカリ金属が多く、全体ではアルカリ性となります。
- 炭酸塩
燃焼で発生する有害物質の無害化において、大量の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が必要となります。水酸化カルシウム(Ca(OH)2)製造の過程で大量の二酸化炭素が発生します。
二酸化炭素を大気中に放出するのは好ましくありません。水に二酸化炭素を溶かすと炭酸になります。炭酸は金属と反応し炭酸塩となり個体に変化します。
この操作により、二酸化炭素の放出を大幅に減少できます。
- なぜ?福島原子力発電所の事故で放射能が拡散したか?
放射能汚染で問題となっているのは、放射性セシウムと放射せいヨウ素です。なぜでしょう?
セシウムの沸点は671℃、ヨウ素の沸点は184℃です。水素爆発では高温ガスが発生し、 セシウムとヨウ素は気体に変化します。気体となった
セシウムとヨウ素は大気中に拡散し、冷却され微細な個体に変化します。個体となったセシウムとヨウ素は雨とともに地上に降りそそぎます。
木の葉、雨水の流れ道には、高濃度の放射性セシウムとヨウ素がたまります。
- 放射性汚染物質から、セシウムとヨウ素を取り除くことは可能か?
セシウムとヨウ素は特定の温度で気体化します。この性質を利用して、放射性汚染物質から、セシウムとヨウ素を取り除くことが可能です。
- 家電製品のリサイクル法は国家戦略の怠慢です。
廃棄物は物質であり資源です。資源の処理に多額の費用が発生するのは、仕組みに問題があると考えるべきです。現在は、製造、販売、輸送は分
業化されており、リサイクルの責任を製造に求めるのは無理があるとかんがえられます。リサイクルは資源の活用であり、重要な国家戦略です。
- 個人的なテレビの廃棄処理事例
テレビの廃棄処理には費用が発生するわけですが、完全な弁別処理を行うと一般危険物として廃棄処理ができます。具体的に実施してみますと
・工具を使ってカバー、骨組み、電子回路、ブラウン管に分解します。
・ブラウン管についているコイル類をはずします。(銅線と樹脂に分けられます。)
・ブラウン管の電子銃のガラスが薄いので、ハンマーでたたくと割れて空気がはいります。
・ブラウン管のガラスを粉砕し、ガラスと金属に分けます。
・最終的に「樹脂」「金属、電子回路」「ガラス」に分別し、一般危険物として廃棄処理します。
手作業で大まかには分別可能ですが、電子回路は複雑で材料別に分けることは不可能です。厳密にいうならば、手作業で完全な分別は不可能であるということです。
もっと効率の良い処理方法があるはずです。
- 製造企業責任で完全なリサイクル処理は可能か?
この課題に関して、はなはだ疑問を感じます。家電製品を製造する技術とリサイクル技術は別物です。もし、むりやり製造企業責任でリサイクル処理を行うとしたら、個人的
なテレビの廃棄処理事例と類似の作業となり、人件費が発生してしまいます。従って、リサイクル処理にコストが発生することになります。しかも、完全な分別は困難なはず
です。家電製品の国際競争はコストが重要です。リサイクル処理に余分なコストが発生するとしたら、コスト競争に敗れ衰退するでしょう。
- 大規模リサイクル処理プラントの必要性
複雑な部品で構成された廃棄物を手作業で分別するのは効率が悪く、しかも不完全となります。あらゆる廃棄物を効率的、安全、無公害でリサイクルするプラントが必要です。
あらゆる廃棄物は1550℃程度まで加熱すれば、ほとんど分解するか溶解してしまいます。分解(気体化)あるいは溶解(液体化)してから分別すれば、精度良く資源を取り出せリサイクルが容易となります。
このような性能を持つ大型プラントを企業で運営するのは困難であり、国家戦略が不可欠となります。
- 大規模リサイクル処理プラントの放射性汚染物質処理への活用
もし、大規模リサイクル処理プラントが現時点で完成していたならば、放射性汚染物質から、セシウムとヨウ素を取り除くことはたやすいことです。
しかし、大規模リサイクル処理プラントの完成には多額の費用と期間がかかります。現状技術では、セシウムの放射線が半減するのに30年、1/4には60年待つきりありません。
もし、拡散した放射能を除害処理できないならば除害処理が完成するまで、原子力発電は再開すべきではありません。
37章:リサイクルプラントの課題と1550℃燃焼炉の基本構造
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