48章:自動車システム

    作成2012.07.01
     自動車システムに求められる機能と性能について考えてみたいと思います。


  1. 自動車システムに求められる機能と性能
    (1)価格:購入にあたっては重要です。
    (2)燃費:ガソリンのエネルギー単価は昼間の電力単価よりも高価です。
    (3)排ガス:有害物質を排出することはできません。
    (4)維持費:車検、税金、自動車保険、車両保険等の維持費が発生します。
    (5)安全性:高い安全性・信頼性が要求されます。
    (6)加速性:坂道等での加速が必要となります。
    (7)高速性:高速道路では高速性が必要となります。
    (8)操作性:操作のしやすさが要求されます。
    (9)居住性:快適性が要求されます。
    (10)運搬性:荷物の運搬性が要求されます。
    (11)外観:美しさが要求されます。


  2. 自動車の使用目的
    (1)日々の通勤用
    (2)日常の買物と娯楽
    (3)近距離配達
    (4)レジャー・旅行
    (5)地位・ステイタス
    (6)ドライブが趣味
    (7)大型荷物、遠距離運搬
     使用目的により、自動車システムに求められる機能と性能は異なってきます。地位・ステイタスの誇示のためですと高級車 が要求されるでしょう。また、自動車の運転が趣味の場合は、加速性能や最高速度が要求されるでしょう。しかし、これらの 用途は贅沢品の扱いであり限られた用途です。
     都会での生活を除くと、自動車は日々の通勤用や日常の買物と娯楽用として欠かせなくなっています。そして、時々、レ ジャー・旅行用として使用するのが一般的と思われます。


  3. 電気自動車の可能性
    (1)エネルギーコスト
      エネルギーコストだけで判断すれば、電気自動車はかなり魅力的です。
     電力料金とガソリン価格の比較
    ・ガソリン単価: 1kWhの運動エネルギーの単価は約30円
    ・昼間の電力料金:約24円/1kWh
    ・深夜電力料金:約9円/1kWh

    (2)公害
     公害はありません。

    (3)電池コスト
     電池コストは車体重量と走行距離に依存します。燃費が30km/lの車体重量を想定します。(軽並みの車体となります。 )走行可能距離を300kmとします。この時、必要な電池容量は約50kWhとなります。
     リチウムイオン二次電池を使用した場合の電池価格と電池質量は
     電池価格=21,280×50=1,064,000円
     電池質量=50/0.16=310kg
     となります。

    (4)電池寿命  電池寿命は使用条件により大きく変化します。フル放電を行うと電池は急に劣化します。標準的保障サイクル回数は1200 程度といわれています。1日1回充電した場合の寿命は
     寿命=1200/365=3.3年
    ということになります。

    (5)設備
     深夜電力での充電設備の設置が必要となります。

    (6)電池切れの場合
     電気自動車の電池切れは致命的トラブルです。牽引車での回収が必要となります。

     エネルギーコストと公害の点で非常に優れていますが、反面電池コストがネックとなります。電池寿命に達したとき重さ3 10kg価格約100万円の電池を交換できるでしょか?


  4. ハイブリッドカー
     電池コストの問題が解決しないうちはハイブリッドカーが燃費の点で有利です。しかし、車体重量が増大すると燃費がガ ソリンエンジン車に負けてしまう可能性があります。
     ハイブリッドカーが目指す仕様は燃費の向上です。このためには、極限まで車体重量を減らす必要があります。


  5. 低燃費ガソリンエンジン車
       一定の加速性能を維持するには、総重量と推力の比を一定に保つ必要があります。総重量を減らせば推力を減らしても走行 性能が維持できることになります。
     従って、総重量を極限まで低減したガソリンエンジン車は低燃費となります。小型、軽量、低価格が特徴となります。

     しばらくの間はハイブリッドカーと低燃費ガソリンエンジン車の競争が予想されます。


  6. 自動車エンジンシステム
     図48-1に自動車エンジンシステムの概略構成を示します。

     図48-1においては、モータ発電機は自動変速装置を介して車輪を回転させ走行します。
     ターボエンジンの吸気は供給圧力制御装置で精密な圧力制御がおこなわれます。供給圧力制御装置はアクセルと連動し て動作します。
     次に供給温度制御装置で低温に冷却されます。低温にするほど、圧縮比を大きくできるため、エネルギー効率が向上します。
     次に燃料混合装置で空気と燃料を混合します。酸素が少ないと不完全燃焼による一酸化炭素が発生し、酸素が多いと窒素酸 化物が発生するため、厳密な混合比制御が必要です。
     燃料混合空気はターボエンジンを回転させ、排ガス処理装置にはいります。排ガス処理装置は触媒作用で排ガスの処理を 行いますが、厳密には問題があります。(完全な無害化は難しいです)
     ターボエンジンにおいては、排ガスの圧力が高いのでガスタービンを回し、発電してエネルギーを回収します。次にマフ ラーで減圧し騒音を防 止して排気します。


  7. 潤滑オイル
     エンジンはピストンが高速で往復運動します。潤滑が良くないとピストンが摩擦で磨耗します。ピストンの摩擦を軽減す るため、エンジンオイルが使用されます。エンジンオイルは耐熱性が重要ですが、潤滑性向上のため、有機モリブデンが添 加されます。
     エンジン用オイルには、オイルへの溶解性がある有機モリブデンは用いられるようです。有機モリブデンの代表例として は(1)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン 、(2)硫化オキシモリブデン・ジアルキルジチオリン酸塩等が あり、熱により分解して二硫化モリブデンになります。
     すなわち、エンジン用オイルには硫黄成分が含まれます。


  8. 排ガス処理
     自動車における排ガス処理は非常に難しい問題です。酸素が不足し不完全燃焼すると一酸化炭素が発生します。酸素量を増 やすと酸素と窒素が反応し窒素酸化物を生成します。
     また、原油には5%近い硫黄成分が含まれます。その他リンが含まれる可能性もあります。精製したガソリンにも硫黄やリ ンが含まれる可能性があります。硫黄やリンが燃焼すると硫黄酸化物、リン酸化物となります。
     窒素酸化物は空気中の水分と反応して硝酸となり、硫黄酸化物は硫酸になります。リン酸化物は燐酸に変化します。いず れも大気汚染、酸性雨の原因となります。
     これらの有害物質を除去するには大量の水を必要としますが、移動機械である自動車にはおおがかりな除害 プラントの実装は困難です。
     自動車には、小型・軽量な除外装置でないと実装できません。自動車にはプラチナ、パラジウム、ロジウムを使用した 三元触媒の除害装置が使用されます。
     プラチナ、パラジウム、ロジウムはいずれも高価な貴金属です。そして、三元触媒を正常に動作できる条件は限られて います。まず、十分高温である必要があります。酸素の量は厳密に制御して一酸化炭素と窒素酸化物が発生しない厳密な 理論混合比に制御することが不可欠です。
       三元触媒はガソリンやオイルに含まれる鉛、リン、硫黄などによって化学的被毒を受け浄化性能が低下し触媒としての寿命 が短くなる問題があります。
     簡単にまとめると厳密な除害は非常に難しいということです。


  9. 車体総質量とバッテリー容量
     低速時や停止時にはエンジンの回転を止め、モーター発電機で駆動するならば、ガソリンの消費を減らすことがで きるはずです。
     バッテリーの価格と質量はバッテリー容量とほぼ比例します。従って、バッテリー容量は小さくしたほうが軽量化、 低価格化が可能となります。

    例題1:車体総質量600kgの車を1m/s2の加速度で時速20km/hまで加速した場合の所要時間t、移動距離x、消費エ ネルギーqを求めよ。
     時速20km/h=5.6m/sですので、t=5.6s、x=(t^2)/2=15.4m、q=600×15.4=9259(J)=0.00257(kWh)
    となります。
    例題2:傾斜1/10の登り道を車体総質量600kgの車を1m/s2の加速度で時速20km/hまで加速した場合の所要時間t、移動距 離x、消費エネルギーqを求めよ。
     時速20km/h=5.6m/sですので、t=5.6s、x=(t^2)/2=15.4m、q=(600+600 × 9.8/10)×15.4=18333(J)=0.00509(kWh)
    となります。
    上記の計算例から、時速20km/hまでの低速加速においては、大きなバッテリーは必要ないことがわかります。
     0.5kWhの リチウムイオン二次電池を使用した場合の電池価格と電池質量は
     電池価格=21,280×0.5=10640円
     電池質量=0.5/0.16=3.1kg
     となります。この程度なら、価格、質量ともに問題はありません。これでも低速加速用としては十分な容 量があることがわかります。


  10. エンジン容量
     エンジン容量を大きくすると、出力が増大しますが、エンジン重量が増し、ガソリンの消費量が増大します。エンジン容 量は小さいほうが、エンジン重量と燃費の点で有利となります。エンジン容量は300cc程度で走行に必要な出力を得る ことができます。
     エネルギー効率η=0.56、回転数4000rpmとした場合の300ccエンジンの出力(kW)を表48-1に示します。

    表48-1 エネルギー効率η=0.56、回転数4000rpmとした場合の300ccエンジンの出力(kW)
    空気温度℃ -30 -20 -10 0 10 20 30
    圧力kp/m2 KW/300cc KW/300cc KW/300cc KW/300cc KW/300cc KW/300cc KW/300cc
    1000 2.2 2.1 2.0 1.9 1.9 1.791 1.7
    2000 4.3 4.1 4.0 3.8 3.7 3.6 3.5
    3000 6.5 6.2 6.0 5.8 5.6 5.4 5.2
    4000 8.6 8.3 8.0 7.7 7.4 7.2 6.9
    5000 10.8 10.4 10.0 9.6 9.3 9.0 8.7
    6000 13.0 12.5 12.0 11.6 11.1 10.7 10.4
    7000 15.1 14.5 14.0 13.5 13.0 12.5 12.1
    8000 17.3 16.6 16.0 15.4 14.9 14.3 13.9
    9000 19.4 18.7 18.0 17.3 16.7 16.1 15.6
    10000 21.6 20.8 20.0 19.2 18.5 17.9 17.3
    11000 23.8 22.8 22.0 21.2 20.4 19.7 19.1
    12000 25.9 24.9 23.9 23.1 22.3 21.5 20.8
    13000 28.1 27.0 26.0 25.0 24.1 23.3 22.5
    14000 30.2 29.0 27.9 26.9 26.0 25.1 24.2
    15000 32.4 31.1 29.9 28.8 27.8 26.9 26.0
    16000 34.6 33.2 31.9 30.8 29.7 28.7 27.7
    17000 36.7 35.3 33.9 32.7 31.5 30.5 29.5
    18000 38.9 37.4 35.9 34.6 33.4 32.3 31.2
    19000 41.0 39.4 37.9 36.5 35.3 34.1 32.9
    20000 43.2 41.5 39.9 38.5 37.1 35.8 34.7

     表48-1において、大気圧は約10000kp/m2となります。ノーマルエンジンではアクセルを踏み込むことにより供給空気圧力 を10000kp/m2 まで上げることができます。 10000kp/m2以上はターボエンジンです。
     回転数4000rpmとしましたが、回転数に比例して出力が増加します。
     エネルギー効率η=0.56としましたが供給空気の温度を下げることにより、エネルギー効率を向上できます。


  11. ガソリン消費量と燃費
     1時間当たりのガソリン消費量を表48-2に示します。

    表48-2  1時間当たりのガソリン消費量(効率η=0.56、回転数4000rpm、300ccエンジン)
    空気温度℃ -30 -20 -10 0 10 20 30
    圧力kp/m2 l/h l/h l/h l/h l/h l/h l/h
    1000 0.46 0.44 0.43 0.41 0.40 0.38 0.37
    2000 0.92 0.89 0.85 0.82 0.80 0.76 0.74
    3000 1.39 1.33 1.28 1.23 1.19 1.15 1.11
    4000 1.85 1.78 1.71 1.64 1.58 1.53 1.48
    5000 2.31 2.22 2.14 2.05 1.98 1.92 1.85
    6000 2.77 2.66 2.56 2.47 2.38 2.30 2.22
    7000 3.23 3.11 2.99 2.88 2.78 2.68 2.59
    8000 3.70 3.55 3.41 3.29 3.18 3.07 2.96
    9000 4.16 3.99 3.84 3.70 3.57 3.45 3.34
    10000 4.62 4.44 4.27 4.11 3.96 3.83 3.70
    11000 5.08 4.88 4.70 4.52 4.36 4.22 4.07
    12000 5.54 5.33 5.12 4.93 4.76 4.60 4.45
    13000 6.01 5.77 5.55 5.34 5.16 4.98 4.82
    14000 6.47 6.21 5.97 5.75 5.56 5.36 5.18
    15000 6.93 6.65 6.40 6.17 5.95 5.75 5.56
    16000 7.39 7.10 6.83 6.58 6.35 6.13 5.93
    17000 7.85 7.54 7.26 6.99 6.74 6.51 6.30
    18000 8.31 7.99 7.68 7.40 7.14 6.90 6.67
    19000 8.78 8.43 8.11 7.81 7.54 7.28 7.04
    20000 9.24 8.87 8.54 8.22 7.93 7.66 7.41

     1時間で約100kmを走行したと仮定した場合の燃費を表48-3に示します。

    表48-3 燃費(効率η=0.56、回転数4000rpm、300ccエンジン)
    空気温度℃ -30 -20 -10 0 10 20 30
    圧力kp/m2 km/l km/l km/l km/l km/l km/l km/l
    1000 216 226 233 244 251 261 269
    2000 108 113 117 122 126 131 136
    3000 72 75 78 81 84 87 90
    4000 54 56 59 61 63 65 67
    5000 43 45 47 49 50 52 54
    6000 36 38 39 40 42 44 45
    7000 31 32 33 35 36 37 39
    8000 27 28 29 30 31 33 34
    9000 24 25 26 27 28 29 30
    10000 22 23 23 24 25 26 27
    11000 20 20 21 22 23 24 25
    12000 18 19 20 20 21 22 22
    13000 17 17 18 19 19 20 21
    14000 15 16 17 17 18 19 19
    15000 14 15 16 16 17 17 18
    16000 14 14 15 15 16 16 17
    17000 13 13 14 14 15 15 16
    18000 12 13 13 14 14 14 15
    19000 11 12 12 13 13 14 14
    20000 11 11 12 12 13 13 13

     表48-3からわかるように、供給圧力を10000kp/m2(1気圧)ととした場合、燃費は約25km/lとなります。ターボ状態ではさらに 燃費が下がります。
     従って燃費30km/l以上を目標にするならば、エンジン容量は300cc程度で十分であることがわかります。時と場合によっ ては、より大きな出力が必要となりますが、この場合はターボを作動すればより大きな出力を得ることができます。


  12. 自動車用エンジンまとめ
    (1)エネルギーのほとんどは、車体質量の移動のために消費されます。
    (2)燃費向上のポイントは、車体質量の低減です。
    (3)ハイブリッド(モータ発電機)を装備すると減速のエネルギーを電気に変換できるため効率が向上します。
    (4)リチウムイオン二次電池の容量を大きくすると価格と電池質量が増大します。電池容量は最小必要限に抑えるとコ ストパフォーマンスが向上します。
    (5)車体質量の低減において、エンジン容量を小さくするのが効果的です。最適と思われるエンジンは300ccのタ ーボエンジンです。
    (6)排ガスの無害化処理は非常に難しい問題を抱えています。消費するガソリンの量を減らすのは有効な対策のひとつです。
    (7)ガソリンのエネルギー単価は昼間の電力単価よりも高価です。しかも、今後とも上昇の傾向にあります。
    (8)電気自動車は、深夜電力を使用するとエネルギーコストを下げることができます。しかし、大容量の電池を必要と するため、コストアップ、質量アップを伴います。
     電気自動車がエネルギーコストのメリットを生かすためには、電池のコストダウンと長寿命化が不可欠です。


  13. その他まとめ
    (1)自動車に何を求めるか?
    (2)より多くの人が求める仕様の車が生産・販売されるでしょう。
    (3)高燃費、低公害という点で理論検討すると、小型エンジンの小型車が有利という結論に達します。
    (4)しかし、実際の販売で小型エンジンの小型車が多く売れるでしょうか?
    (5)ブランド嗜好、高級車嗜好、高性能車嗜好がまだ多く残っているような気がします。
    (6)現在でも、ガソリンのエネルギー単価は昼間の電力単価より高いのです。今後、さらに高騰が続くでしょう。
    (7)それでもブランド嗜好、高級車嗜好、高性能車嗜好が続くでしょうか?











49章:マイクロ波と電子レンジに行く。

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