49章:マイクロ波と電子レンジ

    作成2012.11.21
     身近なマイクロ波の応用としては電子レンジがあります。


  1. マグネトロンの構造
     電子レンジで使用するマイクロ波の周波数は2.45GHzと定められています。
     光速は299792458m/sですので、波長は122mmとなります。
     大出力の2.45GHzマイクロ波はマグネトロンから発生します。
     マグネトロンの構造を図49-1に示します。外周は陽極になっており、内部は真空になっています。
     中心にヒータと陰極があり、熱電子は陰極から陽極に向かって放出されます。
     真空容器の上下にはマグネットは配置され上下方向に強い磁場がかけられています。
     陰極から放出される熱電子は陰極と陽極間の電位差によって加速されますが、上下方向の強い磁場によって曲げられ螺旋運動をしながら陽極に衝突します。
     陽極には空洞があり(図では10個)、空洞の壁面は1個おきに同期リングに接続され、1個おきに同電位となる構造をしています。

     螺旋運動の熱電子線は空洞の壁面のA点に衝突します。衝突により熱電子線はエネルギーを失い、熱、2次電子、電磁波等のエネルギーを放出します。A点で発生した電磁波は球面波となって伝播し、B点で反射しC点に集光します。C点でも電磁波は反射し、B点に戻ります。さらにB点でも反射しA点に集光します。
     ABC点間の繰り返し反射により、特定周波数の電磁波が共振して強められます。
     この理屈からすると、AB間の距離が30.6mmの時、2.45GHzの共振が発生することになります。従って、マグネトロン本体の外形は約Φ100mm程度となることが予想されます。

     陽極の壁面はひとつおきに同電位となる構造をしています。このような構造とした場合、空洞の電磁波の共振の位相はひとつおきに180度ずれて発生し、共振による電位振動は真空室全体に広がります。
     真空室全体は強力な電位振動が発生しますが、この電位振動をアンテナで外部に導きます。こうするとアンテナ先端から強力な2.45GHzの球面波が放出されます。
     電子レンジ内では、放出された球面波がレンジの壁面で繰り返し反射して食物の水分に作用して過熱されます。



  2. 相対誘電率ε
     相対誘電率εを下記式で定義します。



  3. 水の誘電率の周波数特性

    図49-2において、εr’は相対誘電率の実数部です。主に電磁波の屈折と反射に影響します。 εr’’は相対誘電率の虚数部です。
     水は四つの状態で共振し、誘電率が特異的に変化します。
     第1の共振はイオンの共振運動による変化で1kHz程度の低周波領域の変化です。 εr’’が大きく電波は強く吸収されます。
    第2の共振は双極子の回転運動による変化で22GHzに共振点があります。この領域ではεr’が小さくなりεr’’が大きくなります。
    第3の共振は分子の屈伸運動による変化で100THz付近の赤外線領域に共振点があります。この領域ではεr’が小さくなりεr’’が大きくなります。
    第4の共振は共有電子の運動による変化で1000THz以下の紫外線領域に共振点があります。この領域ではεr’が小さくなりεr’’が大きくなります。


  4. 水の屈折率の波長依存性

     水の屈折率(実数部)の波長依存性を図2に示します。図49-3から波長2800nmの赤外線が共振点であることがわかります。
     これは、107THzに相当します。水の屈折率(虚数部)も変化しますが、省略してあります。


  5. 22GHz付近の誘電率の変化
      22GHz付近の誘電率の変化は下記式で計算できます。

    計算結果を図49-4に示します。



  6. 屈折率の変化
     相対誘電率をε、複素屈折率をnとした場合下記の関係式が成立します。

    計算結果を図49-5に示します。



  7. 水面での電波の反射率
    垂直入射の電波の反射波動r(複素数)は

    反射率Rは

    反射率計算結果を図49-6に示します。

    図49-6から1GHzから80GHzの電波の反射率変化は僅かであることがわかります。


  8. 電波の吸収
     真空中の波長をλ、屈折率虚数部をni、水の厚さをxとした場合、波動振幅は

    となります。従って電波の透過強度は

    となります。X=10mmとして電波の透過強度(49.7)式の計算結果をグラフにすると

     図49-7からわかるように2.45GHz付近では、厚さ10mmの水の層を60%以上が透過することがわかります。吸収された電波は熱に変換され、食品は内部から加熱されます。
     このような特性は、水分子の分子構造と分子内部の電荷の分極に依存する性質です。金属はほとんどが表面反射されるため、金属内部は過熱されません。
     逆にせともの(セタミック)はほとんどが透過するため、せともの(セタミック)内部を過熱できません。マイクロ波は水分を含む食品のみを集中的に加熱する性質があります。


  9. EXCEL計算表
     EXCEL計算表は下記で参照できます。
    「水の相対誘電率、屈折率、反射率、透過率計算表 」にいく。
     複素関数を使用しているため、以下のEXCEL設定が必要です。
    (1)メニューの「ツール」_「アドイン」を選択
    (2)分析ツールをチェク
    (3)OKボタンを押す。
     上記の設定で複素関数の使用が可能となります。


  10. マイクロ波の応用
     マイクロ波の応用としては、通信とレーダがあります。通信にしようされる電波は混線をさけるためさまざまな使用規制があります。
     また、レーダは障害物検知用、軍事用として使用されます。最近注目される用途は自動車の衝突防止用検知器でありミリ波レーダー用特定小電力無線局60.5GHz 76.5GHz等があります。
     マイクロ波は金属や人体で良く反射するため、金属や人体の検知に適しています。

     逆にレーダの検知を避けるには、セラミック製エンジン、グラスファイバー強化プラスチック製機体が有効となるわけです。










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