5章:粘性流体の応用
作成2011.10.27
- リニアオイルダンパー
粘性流体応用の代表例としてはオイルダンパーがあります。オイルダンパーにはリニア型と回転型がありますが、ここではリニア型を解説したいと思います。
図5-1 にオイルダンパーの原理を示します。
オイルダンパーには粘性流体が満たされていり、中心のシャフトが移動すると粘性流体が隙間を通じて移動します。
また、エアーシリンダーに圧力Pを加えると推力Fが生じます。
ここで
・推力=F
・速度=V
・粘性流体の粘度=μ
・比例定数=C
とした場合、下記の関係式が成立します。
推力Fを一定とし、粘性流体の粘度μ0の時の速度をV0としたとき、下記の関係式が成立します。
(5.3)式は単純な関係式です。縦軸にV、横軸にμ 0/ μをとってグラフにすると図5-2に示すようになります。
- 2点間往復運動機構
2点間往復運動機構は、機械設計で比較的多く必要となる機構です。必要性能としては、往復時間、
位置精度、スペース、重量等ですが、エアシリンダとオイルダンパの組合せで比較的簡単に実現できます。
図5-2に2点間往復運動機構の例を示します。
図5-2に示す機構においては、オイルダンパーとストッパが衝突するまでは、比較的高速に駆動できます。
オイルダンパーは衝突による衝撃を吸収し、衝突後は低速の一定速度で移動します。
ストロークエンドでは、シリンダの推力Fの一定荷重がかかるため、優れたい停止位置再現精度を達成できます。
小型のエアシリンダとオイルダンパを使用すれば、機構全体の小型化・軽量化も可能です。
複雑な速度と位置のフィードバック制御が不要であり、低コスト化も可能です。
- 防振機構
オイルダンパの防振機構への応用例を図5-3に示します。
架台からの振動を遮断する代表的な機構としては空気ばねがあります。図5-3には示していませんが、
空気ばねは高さ方向の位置が一定になるように空圧回路による位置フィードバック制御が組み込まれています。
しかし、空気ばねによる位置フィードバックのみでは、架台からの振動は良く遮断できますが、防振ベース上に設置された
高速XYステージが動作し、重心位置の変動があった場合、防振ベース全体が振動する問題が発生します。
いま、
・時間=t
・高さ方向の変位=Z
・防振ベース上の総質量=M
・Z方向オイルダンパの粘性抵抗=Cz
・ Z方向空気ばねのばね定数=Kz
・ Z方向摩擦力=Fz
・ Z方向外部からの力=Qz(t)
とした時、運動方程式は以下のようになります。
XY方向も同様に
外部からの力は任意の関数ですので、このままでは方程式をとくことはできません。具体的な条件を設定しなと方程式はとけません。
ここでは、Z方向のみの定性的な特徴のみ説明します。
(1)架台振動の遮断特性
・質量Mが大きくバネ定数Kが小さいほど架台振動の遮断特性は向上します。
・粘性抵抗Cと摩擦力Fが小さいほど、架台振動の遮断特性は向上します。
(2)高速XYステージによる重心移動の影響
・質量Mが大きいほど影響は小さくなります。
・ばね定数Kは大きい方が影響は小さくなります。
・粘性抵抗Cと摩擦力Fが大きい方が影響は小さくなります。
上記の(1)と(2)と比較すると質量M以外は、相反する特性となります。
図5-3に示す防振機構は、オイルダンパに微小隙間を設けることにより、矛盾を解決します。
架台振動の振幅は数μmから数十μm程度です。このような微小振動はオイルダンパの微小隙間の範囲内であり、
粘性抵抗Cは非常に小さくなります。また図5-3に示す構造では摩擦力は無視できます。
高速XYステージによる重心移動が生じた場合は、振幅が大きくなり、オイルダンパが有効に作動し大きな粘性抵抗を発生します。
すなわち、振幅が小さいときは粘性抵抗が小さく。振幅が大きくなると粘性抵抗が大きくなります。
Z方向オイルダンパの粘性抵抗(Cz)は一定ではなく、Z位置により変化させることにより、架台振動の遮断特性と
高速XYステージによる重心移動の影響の矛盾を解決します。
このような制御を有効に作動させるには、架台の質量が十分に大きく、剛性が高い必要があります。
このような制御をもっと積極的に行うのが、アクティブダンパです。アクティブダンパは防振ベースの加速度を測定し、
振動をキャンセルするように防振ベースに加える力を制御します。
この場合も架台の質量が十分に大きく、剛性が高い必要があります。架台の質量不足や剛性不足があると制御不良が発生します。
ステージ移動に伴う振動対策は
- 防振ベース振動の影響を受けにくい機構構造にする。
- 静止質量に対する移動質量を十分小さくする。
- 移動加速度を制限する。
- 移動質量を対称に配置し、対称に動作させる。
等が確実な対策となります。
上記の対策に限界がある場合は、静止質量をすたすら大きくすることになりますが、製作・運搬・設置作業が大変になります。
また、クリーンルームのグレーティングでは床強度が不足し、設置場所の特別な補強工事が不可欠となります。
6章:オイルダンパの粘性抵抗理論検討に行く。
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