8章:弾性率(ヤング率)の話
作成2011.11.20
固体材料の物性として、弾性率(ヤング率)があります。弾性率(ヤング率)について検討してみたいと思います。
- ばね定数
図8-1に弾性体の定義説明図を示します。
図8-1において、ばね定数(K)は以下のように定義されます。
ばね定数の定義式(8.1)式または(8.2)式において、関係するのは荷重の変化量ΔFと長さの変化量ΔLのみです。
ばね定数は、初期長さ(L),初期荷重(F)、初期断面積(S)、断面積変化量(ΔS)は無視して決定されるのが特徴的です。
ばね定数は一般的にコイルバネの特性を表すのに用いられ、単位はN/mmが多く用いられます。
- 歪
歪の増加分(Δε)は以下のように定義されます。
(8.3)式の定義からわかるように、歪(ε)の単位は無次元となります。
- 応力
応力(σ)は以下のように定義されます。
応力の増加分(Δ σ )は
応力(σ)は材料の強度計算で重要なパラメータです。単位はMPaやN/mm2が多く用いられます。
- ポアソン比
ポアソン比(ν)は断面積の変化に関係するパラメータです。
横方向の歪の増加分(Δε’) は
(8.5)式はテーラー級数展開による近似式です。
ポアソン比(ν)は以下のように定義されます。
ポアソン比はなじみの薄い項目ですが、鉄鋼では0.28〜0.3の値となり、単位は無次元となります。
- 縦弾性率(ヤング率)
縦弾性率(E)(ヤング率)は以下のように定義されます。
(8.8)式から、縦弾性率(E)(ヤング率)の単位はMPaまたは、N/mm2ということになります。
- 縦弾性率(ヤング率)の測定方法(1)
厚さ1mm、幅10mmのシリコンゴムの試験片を作り、図8-2に示すような結果が得られたとします。
この場合の縦弾性率(ヤング率)は以下のように計算できます。
・初期長さ L=100mm
・断面積 S=10mm2
・荷重増加分 ΔF=20N
・長さ増加分 ΔL=10mm
以上の値を(8.8)式に代入すると
比較的簡単に縦弾性率(ヤング率)を計算できることがわかります。
- 縦弾性率(ヤング率)の測定方法(2)
鉄鋼のような機械材料で図8-2と同じ条件で実験すると長さ増加分ΔLは非常に小さくなります。
長さ増加分ΔL は以下の計算で予測できます。
・初期長さ L=100mm
・断面積 S=10mm2
・荷重増加分 ΔF=20N
・長さ増加分 ΔL=10mm
・縦弾性率 E=210000(N/mm2)
(8.10)式に示すように随分と小さな値となります。従って微小な長さの変化を正確に測定する必要が生じます。
微小な長さの変化を測定する手段としては電気マイクロメータ等があり、約0.1μm程度の変化を読み取ることができます。
試験片の断面積、長さ、荷重等の最適化により鉄鋼のような機械材料の測定も可能です。
- 縦弾性率(ヤング率)の測定方法(3)
精密測定においては、縦弾性率(ヤング率)の測定方法(2)が望ましいのですが、もっと簡単に縦弾性率を測定する方法があります。
図8-4に縦弾性率(ヤング率)の測定方法(3)の説明図を示します。
測定治具は、マイクロメータ付Z機構、デジタル重量計、支持構造体で構成されます。
- 測定治具のばね定数(K0)の測定
まずは、測定治具のばね定数(K0)の測定を行います。
・荷重変化量 ΔF=5N
・Z変化量 ΔZ=0.5mm
の場合、測定治具のばね定数(K0)は
となります。
- 試験片をセットした場合ののばね定数(K1)の測定
次に試験片をセットした場合ののばね定数(K1)の測定を行います。
・荷重変化量 ΔF=5N
・Z変化量 ΔZ=1.5mm
の場合、試験片をセットした場合ののばね定数(K1)は
となります。
- 試験片のみのばね定数(K)の算出
試験片のみのばね定数(K)の算出します。
(8.13)式を変形して
- 試験片の縦弾性率(ヤング率)の計算
単純支持中央集中荷重の撓み量(δ)の公式から
(8.15)式、 (8.16)式変形して
ここで、試験片の具体的な値を(8.17)式に代入します。
・梁の長さ L=50mm
・梁の幅 B=10mm
・梁の厚さ H=2mm
・ばね定数 K=5N/mm
計算結果は、 (8.18)式に示す通り約2GPaとなります。この値は平均的な樹脂の縦弾性率(ヤング率)の値です。
鉄鋼のような機械材料の場合は、試験片の厚さを薄くすることにより、変形量が増して測定しやすくなります。
一般的な機械材料の縦弾性率(ヤング率)は公開されており、測定する必要がないかもしれません。しかし、特殊な樹脂材料を調合した場合は、自分で測定する必要が生じます。こんなとき、縦弾性率(ヤング率)の測定方法(3)は手軽な測定方法です。
9章:梁の曲げに行く。
トップページに戻る。