10章:断熱過程

    作成2012.06.21

  1. 断熱過程の条件
     熱力学の第1法則

    (2.3)式において、

    (10.1)式を満足する過程を断熱過程といいます。



  2. 断熱過程の基礎式
      (10.1)式を変形すると



    (10.4)式が断熱過程の基礎式となります。
    初期の比容積をv1、最終比容積をv2、初期温度をt1、最終温度をt2としたとき


    となります。(10.5)式の定容比熱cvは温度tで変化するため、 (10.5)式の積分は数値積分法を適用する必要があります。


  3. 例題10-1
      空気が温度30℃の空気が、最初の圧力10000kp/m2から530℃まで断熱的に圧縮された。
     温度変化10℃ごとの比容積、圧力、仕事エネルギーを求めよ。
    ただし
    絶対零度=-273℃
    空気のガス定数R=29.27(mkp/kg・K)
     温度変化10℃ごとの比容積の値は、表3-2 定容比熱cvの数表(単位:kcal/kg・deg)を補間して作成します。

    解答
     数値積分は、一番簡単な台形積分を使用します。
     計算結果を表10-1に示します。
    表10-1 断熱過程における温度変化10℃ごとの比容積、圧力、仕事エネルギー
    温度 定容比熱cv 定容比熱cv 比容積v 圧力p 仕事l
    kcal/kg・deg mkp/kg・deg m3/kg kp/m2 mkp
    30 0.1720 73.44 0.8869 10000 0
    40 0.1721 73.47 0.8348 10975 -735
    50 0.1721 73.50 0.7857 12033 -1469
    60 0.1722 73.53 0.7395 13181 -2205
    70 0.1723 73.56 0.6960 14426 -2940
    80 0.1723 73.59 0.6550 15775 -3676
    90 0.1724 73.62 0.6164 17237 -4412
    100 0.1725 73.65 0.5801 18820 -5148
    110 0.1729 73.81 0.5459 20537 -5885
    120 0.1733 73.98 0.5136 22397 -6624
    130 0.1737 74.15 0.4832 24414 -7365
    140 0.1740 74.32 0.4545 26599 -8107
    150 0.1744 74.49 0.4274 28968 -8851
    160 0.1748 74.65 0.4019 31534 -9597
    170 0.1752 74.82 0.3779 34314 -10344
    180 0.1756 74.99 0.3552 37326 -11094
    190 0.1760 75.16 0.3339 40588 -11844
    200 0.1764 75.33 0.3138 44121 -12597
    210 0.1769 75.53 0.2949 47948 -13351
    220 0.1774 75.74 0.2770 52093 -14107
    230 0.1779 75.95 0.2602 56583 -14866
    240 0.1783 76.15 0.2444 61447 -15626
    250 0.1788 76.36 0.2295 66715 -16389
    260 0.1793 76.57 0.2154 72422 -17154
    270 0.1798 76.77 0.2022 78602 -17920
    280 0.1803 76.98 0.1898 85296 -18689
    290 0.1808 77.19 0.1781 92546 -19460
    300 0.1812 77.39 0.1671 100399 -20233
    310 0.1818 77.64 0.1567 108905 -21008
    320 0.1824 77.88 0.1469 118122 -21785
    330 0.1830 78.13 0.1378 128110 -22565
    340 0.1836 78.38 0.1291 138934 -23348
    350 0.1841 78.62 0.1210 150663 -24133
    360 0.1847 78.87 0.1134 163375 -24920
    370 0.1853 79.12 0.1062 177152 -25710
    380 0.1859 79.36 0.0995 192085 -26503
    390 0.1864 79.61 0.0932 208272 -27298
    400 0.1870 79.85 0.0872 225819 -28095
    410 0.1876 80.09 0.0817 244842 -28895
    420 0.1881 80.33 0.0764 265464 -29697
    430 0.1887 80.57 0.0715 287822 -30501
    440 0.1893 80.82 0.0669 312065 -31308
    450 0.1898 81.06 0.0625 338353 -32118
    460 0.1904 81.30 0.0585 366860 -32929
    470 0.1910 81.54 0.0547 397777 -33744
    480 0.1915 81.78 0.0511 431309 -34560
    490 0.1921 82.02 0.0478 467683 -35379
    500 0.1926 82.26 0.0446 507141 -36200
    510 0.1932 82.49 0.0417 549948 -37024
    520 0.1937 82.73 0.0389 596392 -37850
    530 0.1943 82.96 0.0363 646786 -38679

    表10-1 断熱過程における温度変化10℃ごとの比容積、圧力、仕事エネルギーにおいて、仕事がマイナスになっ ていますがこれは、外部から圧縮の仕事が必要なこと示しています。

    図10-2に断熱過程のpv相関図を示します。

     熱力学の基礎式の多くは微分形で表現されます。具体的な変数の値を知るには積分演算が必 要となります。特定の条件においては代数的に解くことができますが、比熱ように値が数表で 与えられる場合は代数的にとくことが困難です。このような場合は数値積分が有効です。現在はパソコ ンの性能が大幅に向上しており、数値積分は簡単に実行できます。


  4. 比熱が一定値の場合の断熱過程
     比熱が一定値の場合は代数解を求めることができます。

    (10.6)式は

    となります。比熱の関係式は

    から

    また

    から

    (10.10)式に(10.9)式を代入すると

    すなわち

    一方

    を微分すると

    (10.12)式に(10.13)式を代入して

    (10.14)式を整理すると

    (10.15)式をpvで割ると

    微分方程式(10.16)式の解は

    (10.17)式は以下のように変形できます。



    となります。


    (10.7)式に(10.9)式を代入すると

    になり

    から

    (10.22)式を書き換えると

    (10.23)式に(10.20)式を代入すると

    最後に

    (10.24)式に(10.25)式を代入すると

    (10.23)式、 (10.24)式、 (10.26)式を比較すると

    の関係が得られます。 (10.27)式から


    の関係も得られます。


  5. 例題10-2
      空気が温度30℃の空気が、最初の圧力10000kp/m2から530℃まで断熱的に圧縮された。
     温度変化10℃ごとの比容積、圧力、仕事エネルギーを求めよ。
    ただし
    絶対零度=-273℃
    空気のガス定数R=29.27(mkp/kg・K)
     (10.27)式を使用して計算、k=cp/cv=1.4、cv=0.172(kcal/kg・deg)=73.440 (mkp/kg・deg)とします。

    解答

    (10.27)式を変形して

     計算結果を表10-2に示します。

    表10-2 断熱過程(代数解)における温度変化10℃ごとの比容積、圧力、仕事エネルギー
    温度 比容積v(k=一定) 圧力p(k=一定) 仕事l(cv=一定) 比容積v(数値積分) 圧力p(数値積分)
    m3/kg kp/m2 mkp m3/kg kp/m2
    30 0.8869 10000 0 0.8869 10000
    40 0.8177 11204 734 0.8348 10975
    50 0.7559 12507 0 0.7857 12033
    60 0.7004 13916 -734 0.7395 13181
    70 0.6505 15434 -1469 0.6960 14426
    80 0.6054 17067 -2203 0.6550 15775
    90 0.5646 18820 -2938 0.6164 17237
    100 0.5275 20698 -3672 0.5801 18820
    110 0.4937 22706 -4406 0.5459 20537
    120 0.4629 24850 -5141 0.5136 22397
    130 0.4347 27134 -5875 0.4832 24414
    140 0.4089 29565 -6610 0.4545 26599
    150 0.3851 32147 -7344 0.4274 28968
    160 0.3633 34887 -8078 0.4019 31534
    170 0.3431 37789 -8813 0.3779 34314
    180 0.3245 40860 -9547 0.3552 37326
    190 0.3073 44105 -10282 0.3339 40588
    200 0.2913 47530 -11016 0.3138 44121
    210 0.2764 51141 -11750 0.2949 47948
    220 0.2626 54943 -12485 0.2770 52093
    230 0.2498 58944 -13219 0.2602 56583
    240 0.2378 63148 -13954 0.2444 61447
    250 0.2266 67563 -14688 0.2295 66715
    260 0.2161 72193 -15422 0.2154 72422
    270 0.2063 77046 -16157 0.2022 78602
    280 0.1971 82128 -16891 0.1898 85296
    290 0.1885 87444 -17626 0.1781 92546
    300 0.1803 93002 -18360 0.1671 100399
    310 0.1727 98808 -19094 0.1567 108905
    320 0.1655 104868 -19829 0.1469 118122
    330 0.1587 111189 -20563 0.1378 128110
    340 0.1523 117778 -21298 0.1291 138934
    350 0.1463 124640 -22032 0.1210 150663
    360 0.1406 131784 -22766 0.1134 163375
    370 0.1352 139216 -23501 0.1062 177152
    380 0.1301 146942 -24235 0.0995 192085
    390 0.1252 154970 -24970 0.0932 208272
    400 0.1206 163307 -25704 0.0872 225819
    410 0.1163 171958 -26438 0.0817 244842
    420 0.1121 180933 -27173 0.0764 265464
    430 0.1082 190237 -27907 0.0715 287822
    440 0.1044 199878 -28642 0.0669 312065
    450 0.1008 209862 -29376 0.0625 338353
    460 0.0974 220199 -30110 0.0585 366860
    470 0.0942 230893 -30845 0.0547 397777
    480 0.0911 241954 -31579 0.0511 431309
    490 0.0881 253388 -32314 0.0478 467683
    500 0.0853 265203 -33048 0.0446 507141
    510 0.0826 277407 -33782 0.0417 549948
    520 0.0800 290006 -34517 0.0389 596392
    530 0.0776 303009 -35251 0.0363 646786

    図10-3に断熱過程のpv相関比較図を示します。


     代数解はk=cp/cv=一定と仮定しています。k=一定と仮定しないと代数解の誘導が難しいためです。これに対して数値積分法においては、比 熱cvが数表で与えられれば計算可能です。
     図10-3から代数解は数値積分法に対して誤差を生じることが確認できます。断熱過程における 代数解はあくまでも近似計算として判断する必要があります。








11章:カルノーサイクルに行く。

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