15章:オットーサイクル(otto cycle)
作成2012.06.26
オットーサイクル(otto cycle)は、等容燃焼サイクルとも呼ばれる、可逆熱サイクルの一種で、 火花点火式エンジン(ガソリンエンジン・ガス
エンジン)の理論サイクルです。
- オットーサイクルの動作
等容過程ではv=一定となります。従って、エントロピの関係式
図15-1にオットーサイクルのpv線図を示します。
- 図15-1において、ピストンは吸気の動作が完了してB1の位置にあるとします。この時の状態をpv線図上のa点
に対応します。この時の圧力をp1、比容積をv1とします。
- ピストンがB2点に移動すると断熱圧縮され、b点(p2、v2)に変化します。
- ピストンがB2点に達すると点火され、燃焼が起こります。燃焼が限りなく短い時間で発生すると仮定するならば、燃焼に
よる熱エネルギーによりc点(p3、v3)に変化します。
- 燃焼ガスは断熱膨張し、ピストンをB1点に移動させます。この状態をd点(p4、v4)とします。
- 燃焼ガスを排気するため、排気弁が開きピストンがB2に移動します。この過程をdeの点線で示しています。この
過程においては、弁が開いているため圧力も比容積も変化しません。(点線は説明上描いたものです。)
- 排気が完了すると排気弁が閉じて、吸気弁が開きピストンがB1に移動します。この過程をfaの点線で示していま
す。この場合も圧力と比容積は変化しません。吸気が完了すると吸気弁が閉じます。
- オットーサイクルの効率
燃料を含む空気と燃焼ガスの定圧比熱cpと定容比熱cvの正確な値は把握していません。ここでは簡単化のため定圧比熱cpと定
容比熱cvの値は一定と仮定して、オットーサイクルの効率を求めます。
熱エネルギーが動作気体に取り入れられるのは、図15-1においてbcの等容過程のみです。b点の温度をT2、c点の温度をT3とした
場合、取り入れられた熱エネルギーq1は
となります。また熱エネルギーを放出するのは、図15-1においてdaの等容過程のみです。d点の温度をT4、a点の温度をT1と
した場合、放出した熱エネルギーq2は
となります。したがってオットーサイクルの効率ηは
(15.3)式の形に変形できます。ここで10章の断熱過程の関係式を用います。
(10.27)式から
(15.5)式を変形すると
(15.3)式に(15.4)式と(15.6)式を代入すると
また、自動車エンジンでは圧縮比ε=v1/v2が良く用いられます。 (15.7)式を圧縮比εで書き直すと
すなわち自動車エンジンの効率は圧縮比εのみで決定されます。比熱比k=1.33が実用上もちいられます。
- 自動車エンジンの圧縮比εと効率ηと圧縮後の温度の関係
(15.8)式と(10.27)式から自動車エンジンの圧縮比εと効率ηと圧縮後の温度の関係は容易に計算できます。
計算結果を表15-1に示します。
表15-1 自動車エンジンの圧縮比εと効率ηと圧縮後の温度の関係
ε | η | T2/T1 | t1=-30(℃) | t1=-20(℃) | t1=-10(℃) | t1=0(℃) | t1=10(℃) | t1=20(℃) | t1=30(℃) |
4 | 0.367 | 1.58 | 111(℃) | 127 | 143 | 158 | 174 | 190 | 206 |
5 | 0.412 | 1.70 | 140(℃) | 157 | 174 | 191 | 208 | 225 | 242 |
6 | 0.446 | 1.81 | 166(℃) | 184 | 202 | 220 | 238 | 256 | 274 |
7 | 0.474 | 1.90 | 189(℃) | 208 | 227 | 246 | 265 | 284 | 303 |
8 | 0.497 | 1.99 | 210(℃) | 230 | 249 | 269 | 289 | 309 | 329 |
9 | 0.516 | 2.06 | 229(℃) | 249 | 270 | 291 | 311 | 332 | 353 |
10 | 0.532 | 2.14 | 247(℃) | 268 | 289 | 311 | 332 | 353 | 375 |
11 | 0.547 | 2.21 | 263(℃) | 285 | 307 | 329 | 351 | 373 | 396 |
12 | 0.560 | 2.27 | 279(℃) | 301 | 324 | 347 | 370 | 392 | 415 |
13 | 0.571 | 2.33 | 294(℃) | 317 | 340 | 363 | 387 | 410 | 433 |
14 | 0.581 | 2.39 | 308(℃) | 331 | 355 | 379 | 403 | 427 | 451 |
15 | 0.591 | 2.44 | 321(℃) | 345 | 370 | 394 | 419 | 443 | 468 |
16 | 0.599 | 2.50 | 334(℃) | 359 | 384 | 409 | 434 | 459 | 483 |
表15-1から圧縮比εを大きくすると効率ηが大きくなるのは明らかです。圧縮後の温度は初期温度t1(℃)に依存しま
す。初期温度t1(℃)を低くすると圧縮後の温度が低くなります。
では、何度まで圧縮後の温度を上げてよいか?これはガソリンエンジンの燃料の物性に依存することになります。
- 自動車エンジンの考察
熱力学は自動車エンジンの効率向上に関して、基本原理的な指針を示します。実用においては、さまざまな見地から総
合エンジニアリング検討が必要となります。
検討すべき項目としては
(1)有害物質の完全除去化(環境保全のため必須です。)
(2)化石燃料消費の削減
(3)二酸化炭素排出削減
(4)安全性、信頼性
等が上げられます。これらの項目は熱力学から外れる検討項目となります。これらの項目は「工学関
係の雑学」で少し検討しました。
16章:ディーゼルサイクルに行く。
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