16章:ディーゼルサイクル

    作成2012.07.04

     ディーゼルサイクル(Diesel cycle)は、等圧燃焼サイクルとも呼ばれる、可逆熱サイクルの一種で、ディーゼルエンジンの理論サイクルです。
  1. ディーゼルサイクル
     図16-1にディーゼルサイクルのpv線図を示します。

    (1)図16-1において、ピストンは吸気の動作が完了してB1の位置にあるとします。この時の状態をpv線図上のa点に対応します。この時の圧力を p1、比容積をv1とします。

    (2)ピストンがB2点に移動すると断熱圧縮され、b点(p2、v2)に変化します。

    (3)ピストンがB2点に達すると燃料が噴射され、燃焼が起こります。この場合、燃焼には有限の時間掛かります。燃焼中にピストンが移動し るため、比容積が増大します。燃焼のエネルギーは比容積の増大に消費され、圧力が一定のまま、c点(p3、v3)に変化します。

    (4)燃焼ガスは断熱膨張し、ピストンをB1点に移動させます。この状態をd点(p4、v4)とします。

    (5)燃焼ガスを排気するため、排気弁が開きピストンがB2に移動します。この過程をdeの点線で示しています。この過程においては、弁が開いている ため圧力も比容積も変化しません。(点線は説明上描いたものです。)

    (6)排気が完了すると排気弁が閉じて、吸気弁が開きピストンがB1に移動します。この過程をfaの点線で示しています。この場合も圧力と比 容積は変化しません。吸気が完了すると吸気弁が閉じます。



  2. ディーゼルサイクルの効率
     ここでは簡単化のため定圧比熱cpと定容比熱cvの値は一定と仮定して、ディーゼルサイクルの効率を求めます。
     熱エネルギーが動作気体に取り入れられるのは、図16-1においてbcの等圧過程のみです。b点の温度をT2、c点の温度をT3とした場合、取り入 れられた熱エネルギーq1は

     となります。また熱エネルギーを放出するのは、図16-1においてdaの等容過程のみです。d点の温度をT4、a点の温度をT1 とした場合、放出した熱エネルギーq2は

    となります。したがってオットーサイクルの効率ηは

    となります。

    (8.1)式から

    (16.3)式が成立します。 (16.3)式のρを等圧膨張比といいます。従って

    ここで10章の断熱過程の関係式を用います

    (10.27)式から

    が成立します。(16.5)式のδを断熱膨張比といいます。したがって

    また、断熱線abに対しては

    が成立します。(16.7)式のεを断熱圧縮比といいます。したがって

    となります。 (16.2)式に(16.4)式、 (16.6)式、 (16.8)式を代入すると

    となります。ρ、ε、δの間には

    の関係が成立します。(16.10)を(13.9)式に代入すると

    となります。


  3. ディーゼルエンジンの圧縮比εと等圧膨張比ρと効率ηの関係
     (16.11)式からディーゼルエンジンの圧縮比εと等圧膨張比ρと効率ηの関係は容易に計算できます。
     計算結果を表16-1に示します。

    表16-1 ディーゼルエンジンの圧縮比εと等圧膨張比ρと効率ηの関係 
    ε\ρ 1.5 2 3 4 5 6 7
    10 0.50 0.47 0.42 0.38 0.34 0.31 0.28
    12 0.53 0.50 0.45 0.41 0.38 0.35 0.32
    14 0.55 0.52 0.48 0.44 0.41 0.38 0.35
    16 0.57 0.54 0.50 0.47 0.44 0.41 0.38
    18 0.59 0.56 0.52 0.49 0.46 0.43 0.41
    20 0.60 0.58 0.54 0.50 0.48 0.45 0.43
    22 0.61 0.59 0.55 0.52 0.49 0.47 0.44
    24 0.62 0.60 0.56 0.53 0.51 0.48 0.46
    26 0.63 0.61 0.58 0.54 0.52 0.50 0.47
    28 0.64 0.62 0.59 0.56 0.53 0.51 0.49
    30 0.65 0.63 0.59 0.57 0.54 0.52 0.50

     表16-1から明らかなように等圧膨張比ρが増大するに従い、エネルギー効率は低下します。しかし、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと異なり、自然発火の制約が無く圧縮比εを容易に向上できます。このため、総合効率としては、ガソリンエンジンと変わらないエネルギー効率を得ることができます。

  4. ディーゼルエンジンの考察
     熱力学は、ディーゼルエンジンの効率向上に関しして、基本原理的な指針を示します。実用においては、さまざまな 見地から総合エンジニアリング検討が必要となります。
     検討すべき項目としては
    (1)有害物質の完全除去化(環境保全のため必須です。)
    (2)化石燃料消費の削減
    (3)二酸化炭素排出削減
    (4)安全性、信頼性
     等が上げられます。特に有害物質の完全除去化に関しては、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりさらに難し い問題を抱えています。
     ディーゼルエンジンの最大の課題は有害物質の完全除去化です。










17章:空気圧縮機とポリトロープ過程に行く。

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