8章:高圧タンクの強度の検討(2)

    作成2013.05.16

  1. 蓋の強度計算モデル
     蓋の強度計算にあたっては、荷重条件のモデル化が必要となります。
     図8-1に蓋の強度計算モデルを示します。内圧のシールはOリングを使用するため、円筒パイプの外径より大きくなります。このため等分布荷重P=15MPaが半径X1=64.5mmの範囲に作用します。この総荷重は196000Nとなります。
     ボルトによる固定荷重はこの1.5倍の294000Nとします。この場合X1点に98000Nの集中荷重が発生します。
     ボルトはM16を16本使用した場合、18380N/本となり標準推力21257N/本以内です。



  2. 円板の軸対称曲げ
     円筒の応力と変形の計算式の計算式については工学関係の雑学 15章:円板の軸対称曲げ
    15章:円板の軸対称曲げに行く。
     で説明していますが、上記モデルに適用できません。

  3. 図8-1モデルの計算式
     図8-1のモデルにおいて半径X0からX1までの円板の曲げの基礎方程式は

     半径X1からX2までの円板の曲げの基礎方程式は

     となります。(8.1)式と(8.2)式を代数的に解いて、境界条件を決定するのは、かなり厄介な作業となります。しかし、(8.1)式と(8.2)式はともに3階常微分方程式であり、ルンゲ・クッタ法を適用すれば数値的に解を求めることができます。

     上記の微分方程式は半径X=0が特異点であり、X=0で計算不能となります。また初期値Y0、Y'0、Y''0を設定する必要があります。
    Y0は高さのオフセットでありY0=0として問題はありません。
    Y'0は傾斜の初期値であり、X0点が完全固定の場合、Y'0=0となりますが実際には完全固定とはならず有限の値を設定する必要があります。(Y'0の設定値は微妙に調整する必要があります。)
    Y''0は曲率の初期値ですが、これはX2点の曲げモーメントがゼロになるように補正する必要があります。この補正はプログラムで自動補正します。


  4. 円板の応力と変形の計算プログラム
     C#、WPFアプリケーションで作成しました。

     完成ファイルは以下からダウンロードできます。
     ダウンロード後は解凍してから使用してください。
      [円板の応力と変形の計算プログラム]をダウンロードする。
     解凍すると「discus」フォルダーがあります。
    「Pipe」フォルダー内の「discus.sln」をダブルクリックすると「Express 2012 for Windows Desktop」が起動して、プログラムの修正・デバッグが可能です。
     「discus.exe」をダブルクリックすると実行プログラムが起動して、円板の応力と変形の計算が可能となります。


  5. 操作説明
    (1)discus.exe」をダブルクリックします。
    (2)計算実行ボタンを押すと安全率と各半径位置の応力と変形を計算します。
    (3)メニューの「保存」を選択して計算結果を保存します。
    (4)クローズボックスで終了します。


  6. 設定パラメータ
    (1)計算位置分割数:計算位置の分割数を設定します。
    (2)ヤング率:材料の縦弾性係数を設定します。
    (3)ポアソン比:材料のポアソン比を設定します。
    (4)等分布荷重:内圧または外圧の圧力を設定します。
    (5)集中荷重:蓋の固定のための荷重を設定します。(=ボルト荷重-面積×圧力)
    (6)板厚:蓋の厚さを設定します。
    (7)初期半径:計算開始半径を設定します。(半径=ゼロは計算不能です。)
    (8)シール半径:Oリングの中心位置です。
    (9)ボルト位置半径:ボルトの中心位置です。
    (10)変位初期値:通常ゼロを設定します。
    (11)傾斜初期値:計算開始半径における傾斜を設定します。(微調整が必要です)
    (12)曲率初期値:自動計算で補正されます。
    (13)耐力:材料の耐力を設定します。
    (14)安全率:計算開始半径から3番目の位置で安全率を計算します。(計算開始半径での計算誤差が大きいため)


  7. 計算結果の見解
    (1)板厚は37mmとしました。この条件において安全率は約2.0となります。
    (2)この数値計算においては、半径ゼロの位置が特異点となり計算できないため、中心近傍の計算誤差が大きくなります。
    (3)計算開始位置X0での傾斜は、完全固定の場合はゼロとなりますが通常は有限の値となります。
    (4)このモデルにおいて最大応力は計算開始位置X0となります。しかし計算開始位置X0での計算誤差が大きいため、安全率は計算開始位置から3番目の値で計算しました。
    (5)このモデルにおいては計算開始位置に応力が集中しますが、応力が耐力以上となった場合永久変形が発生します。
    (6)この永久変形は応力を緩和する方向に作用するため、破壊にはいたりません。
    (7)思いのほかごつい構造となりました。これはOリングによるシール径はパイプ内径より大きいため、より大きな荷重が蓋に作用するためです。
    (8)スマートな構造にするには、Oリングによるシール径を小さくする必要があります。


    感想:
    (1)C#、WPFアプリケーションを使用すると数表のサイズを自由に設定できるため 操作画面がスマートになります。
    (2)このプログラムは図8-1のモデルが前提となります。
    (3)モデルが変更となった場合は、プログラムの修正が必要となります。








9章:トラス構造の強度計算に行く。

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