2章:トランジスタ

    作成2013.09.02

  1. トランジスタ
    (1)p-n-pトランジスタの平衡状態
     トランジスタは図2-1に示すように高抵抗の狭い幅を持ったn領域を両側からp領域ではさんだ構造(p-n-p構造)、あるいはその逆(n-p-n構造)の構造を持っている。前者をp-n-pトランジスタ、後者をn-p-nランジスタと呼ぶ。
     3つの領域にはそれぞれオーム接触によって引き出し線がつけられている。真ん中の領域をベース(B)、片側の領域をエミッタ(E)、反対側に領域をコレクタ(C)と呼び、3極管と比較すればエミッタ(E)がカソード、ベース(B)がグリッド、コレクタ(C)がプレートに対応すると考えてよい。コレクタ領域の不純物濃度はトランジスタの製法によって異なるが、エミッタ(E)側の不純物濃度はベース(B)領域と比較して十分大きくしてある。
     各電極に何も電圧を加えない場合の電位状態は図2-1に示すようにエミッタ(E)とをコレクタ(C)領域の空間電位がマイナス電位となり、ベース(B)領域がプラス電位となる。フェルミレベル+電位は空間電位の反対符号となる。フェルミレベル+電位とキャリア電荷濃度と同じとなります。したがってキャリアの拡散と電界がバランスした状態となり電流はながれません。



    (2)p-n-pトランジスタのベース接地
     図2-2にp-n-pトランジスタのベース接地を示します。図2-2において、ベース(B)はアースに接続されゼロ電位、エミッタ(E)はプラス電位、コレクタ(C)はマイナス電位となります。
     したがって、空間電位はエミッタ(E)領域が高く、コレクタ(C)領域が低くなります。フェルミレベル+電位も同様にエミッタ(E)はプラス電位、コレクタ(C)はマイナス電位となります。キャリア電荷濃度はフェルミレベル+電位と等しくなります。
     キャリアは電界と濃度勾配の方向に移動します。したがってホールはエミッタ(E)領域からベース(B)領域に流れ込みます。
     流れこんだホールの一部はベース(B)領域の電子と再結合して消滅しますが、大部分はベース(B)領域を通過してコレクタ(C)領域に到達します。
     コレクタ(C)領域はホールが多数キャリアであり、電界と濃度勾配の方向に移動します。そして、コレクタ(C)側の配線に到達します。
     E-B間は順方向にバイアスされているから入力インピーダンスは非常に低く、僅かな電圧でエミッタ電流を流し込むことができます。
     一方、B-C間は逆方向にバイアスされているから出力インピーダンスは非常に高く、大きな負荷抵抗をつなぐことができる。したがって、わずかな電圧で流しこんだエミッタ電流がほとんどそのままコレクタ電流となって大きな負荷抵抗に流れる所に電力増幅作用があるわけである。



  2. 注入効率αe
     E-B間に順方向バイアスを加えた場合、流れる電流はエミッタからベースに向かうホールとベースからエミッタに向かう電子によって運ばれる。このうち、コレクタに達して増幅作用に寄与するのはホールだけで電子による電流は全くの無効電流となる。
     ホール電流Ipと電子電流Inは


     電子電流Inの符号を考慮してホール電流Ipと電子電流Inの比は

     エミッタからベースに注入されたホールはコレクタ領域に達すると多数キャリアとなるため、ホールの拡散長さLpはベース幅Wと置いてよい。
     また、アンシュシュタインの関係式と伝導率の関係式から

    注入効率αeはエミッタ電流のうちホール電流の占める割合をいう。したがって

     注入効率αeはバイアス電圧Vにも依存するため、単純定数ではないが、普通のトランジスタでは0.99付近の値となっている。


  3. 輸送効率αb
     エミッタから注入されたホールはベース領域を拡散で通過する。ベース領域のホールの状態を知るには拡散方程式を解かねばならないが、これは相当めんどうなので後で説明することになる。
     一定電流が流れている場合、B-C接合部ではベース領域のホールな対して加速電界がかかっており、到達したホールは全部コレクタに吸い取られる。ベース領域でホールと電子が再結合する割合が小さければ、エミッタから流れ込んだホール電流はほとんどそのままコレクタ電流となる。
     ベース領域におけるホールの拡散長に対してベース幅Wが十分小さい場合には、拡散中にホールと電子が再結合する割合は非常に小さい。エミッタから注入されたホールとコレクタに達するホールの比を輸送効率αbと呼ぶ。証明は省略して輸送効率αbは

    となり、W/Lp=0.1とするとαb=0.995となる。通常αbはほとんど1とみなしてよい。しかし、この部分はホールが拡散で通過するため最も時間がかかる。これはIeとIcの間に遅れを生じることになり、周波数特性をもつことを意味する。電流増幅率αの周波数特性はほとんどこの部分定まる。


  4. コレクタ効率αc
     B-C接合部の電位の勾配は大きく電界が強いため、B-C接合部の達したホールは加速されてコレクタに流れ込む。コレクタがブレークダウン電圧以下でもなだれ作用を起こし、僅かに電流が増幅される結果となる。この増倍作用をコレクタ効率αcと呼ぶ。コレクタ効率αcは

     (2.5)式において、nは実験的に求められるが、階段状接合でn=3となる。通常の使用条件においてコレクタ効率αcは1とみなしてよい。


  5. 電流増幅率α
     電流増幅率αは注入効率αe、輸送効率αb、コレクタ効率αcの掛け算となる。すなわち



  6. エミッタ接地回路

     ベース接地回路では電流増幅率αは1より僅かに小さい値となるから電流利得は無く、トランジスタの入力抵抗と負荷抵抗のの比の電圧利得しか得られない。エミッタからIeなる電流が流れこむと、そのうちαIeはコレクタ電流となり、残り(1-α)Ieだけベース電流となる。したがって、逆にIbを入力電流として制御してやればIcは次式のようになる。

     αが1に近ければα/(1-α)は非常に大きな値になる。したがって、ベース〜エミッタから入力を加えてコレクタ〜エミッタから出力を取り出すと大きな電流利得が得られる。これをエミッタ接地回路と呼び、図2-3に示す回路構成となる。このエミッタ接地回路は真空管では、図2-3(c)に示す回路に相当し、大きな電流利得と同時に電圧利得もとれるのでベース接地回路に比べて大きな電力利得が得られる。
     このため、実際の増幅回路では、エミッタ接地回路を使用することが多く、ベース設置回路を使うことは滅多に無い。これは真空管の場合と同様である。
     α/(1-α)をエミッタ接地増幅率と呼び、普通βあるいはhfeで表わす。Αを0.99とすればβは99となり、αが1に近づくにしたがってβは急速に増大する。

     つぎにn-p-nトランジスタ(図b)と真空管(図c)を比較してみよう。真空管はヒータでカソードを過熱して電子を飛び出させ、これをグリッドの負電圧で制御する。このため、グリッド電流はゼロであり、電力利得は無限大となる。
     これに対して、n-p-nトランジスタではベースにプラスの電圧を加えて電子を引き出す必要がある。トランジスタでは電流増幅率αを1に近づけるにしてもベース電流をゼロにできない。したがって、トランジスタの電力利得は有限となる。これは真空管と比較してトランジスタが使いにくい原因のひとつであるが、寿命、コスト、スペースの点でトランジスタは圧倒的に真空管と比較して優れる。現在は真空管回路は極まれにしか利用されない。


  7. ベース接地静特性

     図2-4にベース接地静特性の一例を示す。トランジスタの場合は入力インピーダンスが有限であるから図2-4(a)に示すようにVeb、Ie、Vcb、Icの4個の変数を同時に考えなければならない。したがって図2-4(b)のIe-Veb(パラメータVcb)と図2-4(c)のVcb-Ic(パラメータIe)が必要となる。
     まず図2-4(b)を見るとE-B間は順方向にバイアスされているので入力特性はp-n接合の順方向特性に似たものとなる。この図から入力インピーダンスは非常にに低く、僅かなVebの変化でIeが大きく動くことがわかる。したがって、回路の動作を安定させるには、Vebを一定にするのでなく、Ieを一定にすようにすなわち内部抵抗の高い電源からIeを供給するのが望ましい。また、VebとIeの線径性は悪いので、バイアスに加算して加える入力信号についても内部抵抗の高い信号源から加えるのが良い。
     図2-4(b)においてVcbの変化によるIeの変化は小さい。これは出力側の変化が入力に帰還される割合が少ないことを示し、トランジスタが1方向通過系に近い特性をもっていることがわかる。

     エミッタ側を内部抵抗の高い電源で駆動しておけばVebはあまり問題にならないので、普通は図2-4(c)のVcb-Ic(パラメータIe)特性で十分である。この特性はトランジスタの動作の特徴をよく表わしている。第1にIeとIcはほとんど等しくαが1に近いことを意味する。さらにIcの値はIeのみで定まりVcbにはほとんど無関係である。これから、エミッタから注入されたホールが拡散でベースを通過するものであって、コレクタからの電圧で引っ張られるのでは無いことがわかる。
     VcbをゼロのしてもIcはわずかにしか減少しないが、これはもともとB-C間にある静電界が少数キャリアに対して加速電界になっており、接合部に達したホールはこの電界によってコレクタに吸い取られるためである。
     Icの曲線はほとんどVcb軸に平行な直線となり、コレクタ出力のインピーダンスは非常に高く、またVc=0までIcは一定であるためコレクタバイアス電圧を全部出力振幅に取り得ることがわかる。
     Ie=0の場合のIcはp-n接合の逆方向電流に相当するものでこれをIc0と呼ぶ。このIc0はごくわずかな電流であるが、温度による変化が大きく、トランジスタ直流バイアス回路の設計を難しくする原因の一つである。


  8. エミッタ接地静特性

     図2-5にエミッタ接地静特性の一例を示す。入力特性の方はベーす接地の場合とそれほど変わらないが、Ieに対してIbは2桁ほど小さいのでそれだけ入力インピーダンスが高い。
     出力特性をみると、この場合はベース電流にたいするコレクタ電流の直線性がやや劣るが大きな電流増幅率を持っていることがわかる。出力インピーダンスはベース接地に比べるとだいぶ低くなる。Ib=0の特性をIce0と呼び、

     となる。
     以上、p-n-pトランジスタについて説明したが、n-p-nトタンジスタの場合は電圧と電流の符号を全部逆にすれば良い。










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