4章:泌尿器における抗菌薬
作成2016.04.09
泌尿器における抗菌薬について調べてみました。
- 急性単純性膀胱炎
(1)外来治療で良い。
(2)保温、十分な水分摂取、頻回に排尿。
(3)薬物療法(経口抗菌剤):注射は必要ない。
(4)治療開始前に尿細菌培養検査を行う。:感染症を引き起こしている原因菌の同定し、その菌がどういう薬剤が効果的かを検出し、感受性のある薬剤を選択します。
(5)抗菌薬の投与法
【経口抗菌剤の処方例】
ペニシリン系:SBTPC(コナシン錠)(375mg)1回1錠、1日3回
セフェム系 :CPDX-PR(バナン錠)(100mg)1回1錠、1日2回
新キノロン系:LVFX(グラビット錠)(500mg)1回1錠、1日1回
- 急性腎盂腎炎
(1)入院治療が原則。:敗血症の危険性を十分に説明。(敗血症とは、肺炎や腎盂腎炎(じんうじんえん)など生体のある部分で感染症を起こしている場所から血液中に病原体が入り込み、重篤な全身症状を引き起こす症候群です。)
(2)安静、十分な水分補給、頻回に排尿または持続導尿。
(3)薬物療法:原則として注射薬を使用。
(4)治療開始前に尿細菌培養検査(場合により血液培養)を行う。:感染症を引き起こしている原因菌の同定し、その菌がどういう薬剤が効果的かを検出し、感受性のある薬剤を選択します。
(5)抗菌薬の投与法
(6)化学療法の完了は自覚症状の消失だけでなく、尿所見、血液検査上での炎症反応の軽快で判定。
(7)休薬1週間後に再発チェック。
(8)必要に応じて尿路の基礎疾患を検索し、その治療を速やかに行う。
【入院中注射薬の処方例】
ペニシリン系:TAZ/PIPC(ゾシン)1日4.5〜9g、分2、点滴静注
セフェム系 :CTM(セフォチアム)1日2〜49g、分2、点滴静注
アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg)1日2回、点滴静注または筋注
ペネム系:MEPM(メロペネム)(0.5g)1日1.0〜1.5g、分2〜3、点滴静注
【解熱後の経口薬の処方例】
ペニシリン系:SBTPC(コナシン錠)(375mg)1回1錠、1日3回
セフェム系 :CPDX-PR(バナン錠)(100mg)1回1錠、1日2回
新キノロン系:LVFX(グラビット錠)(500mg)1回1錠、1日1回
新キノロン系:CPFX(シプロキサン錠)(200mg)1回1錠、1日2回
- 治療前確認事項
(1)過敏症および過去の医薬品による副作用の確認。
(2)既往歴および合併症の有無。
(3)現在服用中の医薬品。
(4)妊娠、授乳の有無。
(5)職業情報。
(6)腎機能低下例(高齢者など)の予測。
- 尿路感染症患者への生活指導
(1)尿は我慢しない。
(2)トイレットペーパーは前から後ろへ。
(3)外陰部は清潔に。
(4)下腹部は冷やさない。
(5)通気性の悪い下着は避ける。
(6)セックスは治るまで避ける。
(7)便秘はしないよう。
(8)酒類、刺激物は飲食しない。
(9)普段から水分摂取を心掛ける。
- 周術期感染予防の原則
(1)開放手術が長時間にわたる場合は3〜4時間に1回はゴム手袋を交換する。その他術野の汚染状況によりゴム手袋を交換する。
(2)術前日の剃毛はできるだけさけ、必要な場合でも術直前に行う。
(3)常に迅速かつ確実な手術の遂行を心掛ける。
(4)皮膚切開の直前に抗菌薬を投与し、長時間手術では術中に2回目の抗菌薬を考慮する。
(5)予防的抗菌薬投与と治療的抗菌薬投与を区別して対応する。
(6)予防投与では術中投与〜術後3日間までとし、漫然と投与しない。
(7)治療投与では5〜14日間をめどとし、適宜検査を行いながら適切な抗菌薬を選択、変更する。
- 泌尿器科手術における周術期管理
【術前】
*手術までの入院期間短縮(外来で術前検査)
*検尿:尿路の開放を伴う手術に実施(尿路感染症を認める場合は、術前に抗菌薬投与を行う。)
*治療可能症例:原則として治癒を確認して手術を行う。
*治療困難な症例:手術前日より抗菌薬投与を行う。
*剃毛は行わない。必要な場合、術当日に必要な範囲のみ行う。
【術中】
*周術期抗菌薬投与方法:初回投与は手術開始30分前とする。手術時間が4時間を越える場合は追加投与を行う。
*無菌手技の尊守
*無菌手技:止血の徹底、術野の洗浄、死腔の軽減、皮下縫合
*術創の洗浄
*閉鎖式ドレーンの使用
【術後】
*創部は、著しい汚染がない場合48〜72時間はドレッシング材にて覆う。
*尿道カテーテル、ドレーンの早期抜去。
*ガーゼ交換時の滅菌手技の徹底:手袋の着用、滅菌機材の使用。
*病棟回診時の手指消毒の徹底。
*耐性菌感染患者の回診は最後にする。:包交カートを患者のベットサイドまで持ち込まず、必要な物品のみをベットサイドまで持参し、その場で使い切ることが望ましい。
- 泌尿器科開腹手術における周術期感染阻止薬投与方法
(1)清潔手術
*手術名:外陰部手術、腎摘出術、後腹膜腫瘍摘出術など
*投与薬剤:第1世代サファロスポリン系薬、ペニシリン系薬
*投与期間:単回または24時間以内
(2)準清潔手術
*手術名:前立腺摘出術、膀胱部分切除術、TUR-P、TUR-BT、PNL、TULなど
*投与薬剤:第1、2世代セファロスポリン系薬、βLI配合ペニシリン系薬
*投与期間:48〜72時間以内
(3)汚染手術
*手術名:膀胱摘出術(腸管利用手術など)
*投与薬剤:第2世代セファロスポリン系薬、第2世代セファマイシン系薬、βLI配合ペニシリン系薬
*投与期間:72〜96時間以内
- 経尿道的手術(TUR-P、TUR-BTなど)
(1)注射抗菌薬は原則として手術当日のみ(3日以内に終了)
(2)術前に尿路感染症が認められる場合は術前に予防投与し菌を陰性化する。
(3)経口抗菌薬は3〜7日程度投与。
(4)抗菌薬の投与法
(5)治癒しない場合、基礎疾患の合併を検討。
【注射薬の処方例】
セフェム系 :CEZ(セファゾリン)1g
ペニシリン系:ABPC/SBT(ユーシオンS)1.5gまたはTAZ/PIPC(ゾシン)1日4.5g
手術当日:術前と3〜5時間後投与、点滴静注
【経口薬の処方例】
セフェム系 :CPDX-PR(バナン錠)(100mg)1回1錠、1日2回
新キノロン系:LVFX(グラビット錠)(500mg)1回1錠、1日1回
新キノロン系:CPFX(シプロキサン錠)(200mg)1回1錠、1日2回
(注1)新キノロン系薬を使用する場合は可能な限り1回投与量を高用量とすることが推奨される。
(注2)排尿障害患者、DM、各種免疫不全状態、残存腫瘍がある場合等は72時間を越えない範囲で長めに使用する。それ以外の患者では単回あるいは24時間以内の使用を考慮しても良い。
- セフェム系薬の種類
セファロスポリン(Cephalosporin)は、β-ラクタム系抗生物質の一つの種類で、セファマイシン類やオキサセフェム類と共
にセフェム系抗生物質と総称される。ベータラクタム環(四員環ラクタム)にヘテロ六員環がつながった形をしている。
抗菌力・抗菌スペクトルの改善が重ねられてきたため、現在では多種多様なセフェム系抗生物質が販売使用されている。
消化管吸収は一般に良く、副作用が少ないため頻用される。その反面、耐性菌の出現が問題となっている。
(1)第1世代セフェム系薬
セファゾリン、セファロチン、セファピリン、セファレキシン、セファラジン、セファドロキシル、セファロリジン、セフテゾール、セファトリジン、セフロキサジン
(2)第2世代セフェム系薬
セフマンドール、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セファクロル、セフプロジル、セフポドキシム、ロラカルベフ
(3)第3世代セファロスポリン系薬
セフトリアキソン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフタジジム、セフォペラゾン、セフスロジン、セフチブテン、セフィキシム、セフェタメット、セフジトレン ピボキシル
(4)第4世代セファロスポリン系薬
セフェピム、セフピロム
(5)セファマイシン系薬
セフォキシチン、セフォテタン、セフメタゾール、セフブペラゾン、セフミノクス
(6)セファロスポリン系(cephalosporins)注射剤
一般名 | 英名 | 略号 | 商品名 | 備考 |
セファゾリン | cefazolin | CEZ | セファメジン | 第一世代セフェム |
セファピリン | cefapirin | CEPR | セファトレキシール | 第一世代セフェム |
セファロチン | cefalotin | CET | ケフリン | 第一世代セフェム |
セファロリジン | cefaloridine | CER | ケフロジン | 第一世代セフェム |
セフテゾール | ceftezole | CTZ | タイファロゾール | 第一世代セフェム |
セファマンドール | cefamandole | CMD | ケフドール | 第二世代セフェム |
セフォチアム | cefotiam | CTM | パンスポリン、ハロスポア | 第二世代セフェム |
セフロキシム | cefuroxime | CXM | ジナセフ | 第二世代セフェム |
セフェピム | cefepime | CFPM | マキシピーム | 第四世代セフェム |
セフォジジム | cefodizime | CDZM | ノイセフ、ケニセフ | 第三世代セフェム |
セフォセリス | cefoselis | CFSL | ウインセフ | 第三世代セフェム |
セフォゾプラン | cefozopran | CZOP | ファーストシン | 第三世代セフェム |
セフォタキシム | cefotaxime | CTX | クラフォラン | 第三世代セフェム |
セフスロジン | cefsulodin | CFS | タケスリン | 第三世代セフェム |
セフタジジム | ceftazidime | CAZ | モダシン | 第三世代セフェム |
セフチゾキシム | ceftizoxime | CZX | エポセリン | 第三世代セフェム |
セフトリアキソン | ceftriaxone | CTRX | ロセフィン | 第三世代セフェム |
セフピミゾール | cefpimizole | CPIZ | アジセフ、レニラン | 第三世代セフェム |
セフピラミド | cefpiramide | CPM | セパトレン、サンセファール | 第三世代セフェム |
セフピロム | cefpirome | CPR | ケイテン、ブロアクト | 第四世代セフェム |
セフペラゾン | cefoperazone | CPZ | セフォペラジン、セフォビット | 第三世代セフェム |
セフメノキシム | cefmenoxime | CMX | ベストコール | 第三世代セフェム |
(7)経口用セファロスポリン系(cephalosporins)
一般名 | 英名 | 略号 | 商品名 | 備考 |
セファクロル | cefaclor | CCL | ケフラール、セファクロル | 第一世代セフェム経口剤 |
セファトリジン | cefatrizine | CFT | ブリセフ、セプチコール | 第一世代セフェム経口剤 |
セファドロキシル | cefadroxil | CDX | セドラール、サマセフ | 第一世代セフェム経口剤 |
セファレキシン | cephalexin | CEX | ケフレックス、ラリキシン | 第一世代セフェム経口剤 |
セフラジン | cefradine | CED | セフロ | 第一世代セフェム経口剤 |
セフロキサジン | cefroxadine | CXD | オラスポア | 第一世代セフェム経口剤 |
セフォチアム ヘキセチル | cefotiam hexetil | CTM-HE | パンスポリンT | 第二世代セフェム経口剤 |
セフロキシム アキセチル | cefuroxime axetil | CXM-AX | オラセフ | 第二世代セフェム経口剤 |
セフィキシム | cefixime | CFIX | セフスパン | 第三世代セフェム経口剤 |
セフジトレン ピボキシル | cefditoren pivoxil | CDTR-PI | メイアクト | 第三世代セフェム経口剤 |
セフジニル | cefdinir | CFDN | セフゾン | 第三世代セフェム経口剤 |
セフチゾキシム | ceftizoxime | CZX | エポセリン坐薬 | 第三世代セフェム経口剤 |
セフチゾキシム アラピボキシル | ceftizoxime alapivoxil | CZX-AP | - | 第三世代セフェム経口剤 |
セフテラム ピボキシル | cefteram pivoxil | CFTM-PI | トミロン | 第三世代セフェム経口剤 |
セフポドキシム プロキセチル | cefpodoxime proxetil | CPDX-PR | バナン | 第三世代セフェム経口剤 |
セフェタメット ピボキシル | cefetamet pipoxil | CEMT-PI | - | - |
セフカペン ピボキシル | cefcapene pivoxil | CFPN-PI | フロモックス | 第三世代セフェム経口剤 |
セフチブテン | ceftibuten | CETB | - | - |
(8)セファマイシン系(cephamycins)
一般名 | 英名 | 略号 | 商品名 | 備考 |
セフォキシチン | cefoxitin | CFX | マーキシン | 第二世代セフェム |
セフメタゾール | cefmetazole | CMZ | セフメタゾン | 第二世代セフェム |
セフォテタン | cefotetan | CTT | ヤマテタン | 第三世代セフェム |
セフブペラゾン | cefbuperazone | CBPZ | ケイペラゾン、トミポラン | 第三世代セフェム |
セフミノクス | cefminox | CMNX | メイセリン | 第三世代セフェム |
- 実際に使用した薬
(1)セフォチアム塩酸塩点滴静注用1gバッグNP生食液付
*使用個数:1セットとなっています。
*使用日時:2016年3月18日(金)(手術翌日)11:00〜 点滴静注
*主成分:セフォチアム塩酸塩
*分子構造を以下に示します。
(2)セフカペンピボキシル塩酸塩錠100mg「トーワ」
*第1回処方日時:2016年2月19日(金)(軟性膀胱鏡検査後)
*第1回処方個数:9個(3日分)
*第2回処方日時:2016年4月1日(金)(第1回TUR-BT後の外来)
*第2回処方個数:15個(5日分)
*主成分:セフカペンピボキシル塩酸塩水和物
*分子式:C23H29N5O8S2・HCl・H2O
*分子量:604.09
*CAS番号:147816-24-8
*分子構造を以下に示します。
- 泌尿器における抗菌薬まとめ
(1)傷による炎症防止に抗菌薬は、かなり有効です。
(2)しかし、抗菌薬の種類は多く使い方が難しい問題があります。
(3)従って、抗菌薬は専門医の処方どおりに服用する必要があります。
5章:排便と排尿のコントロールに行く。
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