4章:草木染めの染液の特性

    作成2019.05.13

     草木染めの染液は、散歩の途中で入手しやすい草木を利用します。名前もわからない草木が多いのですが、 できるだけ名前のわかる草木を利用します。
     染液の成分の正確な分析はできません。また、染液の特性は、採取した部分(葉、幹、枝、皮、根、花、実等) でも変化し、採取時期や保存期間等でも変化するみたいです。採取しやすい部分を新鮮なうちに利用するのが 良いとおもいます。

  1. 疎水性の色素
    (a)クロロフィル(葉緑素、緑の葉の部分に含まれる)
    (b)リコピン(トマト等に含まれる)
    (c)カロチン(ニンジン等に含まれる)
    等は疎水性の色素ですが、これらは、一般的な草木染めの染液抽出方法や金属イオンの媒染が適用できませ ん。全く別の方法を適用する必要があります。

  2. pH(酸アルカリ度)で色が大幅に変化する色素
    (a)アントシアニン(アントシアニジンが糖や糖鎖と結びついた成分のこと)
    (b)花弁、実、赤い新芽(モミジ、レッドロビン等)に含まれる。
    (c)水溶性
    (d)酸性で鮮やかな赤またはピンク、中性で紫、弱アルカリ性で緑、強アルカリ性で黄土色からこげ茶に変化する。
     等はpH(酸アルカリ度)で色が大幅に変化する色素の特徴ですが、一般的な草木染めの染液抽出方法や金属 イオンの媒染が適用できます。ただし、pHで簡単に色が変化するため、アルカリ性洗剤での選択はできません。水洗 い、またはアクロン等のおしゃれ着用洗剤で洗濯する必要があります。また、選択の回数も制限した方が 良いと思います。

       以下にアントシアニジンの一種であるシアニジンのpH<3における分子構造を示します。



    図4-1において、OH基が5個もあり、親水性であることが容易に推定できます。非常に変わっているのは赤のマーク を付けた結合です。酸素は2個の共有結合で安定するのですが、3個の供給結合となっており、酸素がプラス電荷を 持つのは不安定です。また、青のマークをを付けた炭素同士の2重結合も不安定要素です。
     この条件において、シアニジンは赤色となります。不安定な構造なため、可視領域の固有振動数を持つと思われます。

     以下にシアニジンのpH6〜7における分子構造を示します。



    図4-2において、赤のマークは、OH基がOに変化ことを示します。また、青のマークをを付けた炭素同士の2重結合 は不安定要素で、4個に増えました。
     この条件において、シアニジンは紫色となります。

     以下にシアニジンのpH7〜8における分子構造を示します。



    図4-3において、赤のマークは、OH基がOに変化ことを示します。また、酸素の共有結合は1個で不安定 です。そして、青のマークをを付けた炭素同士の2重結合は不安定要素で、4個です。
     この条件において、シアニジンは青色となります。

     以下にシアニジンのpH8〜10における分子構造を示します。



    図4-4において、赤のマークは、OH基がOに変化ことを示します。また、緑のマークは酸素の共有結合が1個で不安定 で、2個です。そして、青のマークをを付けた炭素同士の2重結合は不安定要素で、4個です。
     この条件において、シアニジンは緑色となります。

     また、pH 11を超えるとカルコン型への開環が起こり、黄色から茶色に変化します。以上は一例ですが、アントシ アニンはpHで色が大きく変化します。

  3. 酸化で発色する色素
    (a)タンニン等の渋み成分
    (b)サクラ、茶、柿、どんぐり類、ビワ、イタドリ、カリヤス、センダングサ等に含まれる。
    (c)水溶性
    (d)アルカリ、または酸化酵素の作用で発色する。
    (e)黄色、オレンジ、黄土色、茶色、こげ茶等の色になる。

     以下にタンニンの一種であるエピカテキンの分子構造を示します。



    図4-5において、OH基が5個もあり、親水性であることが容易に推定できます。ベンゼン環が2個ありますが、炭素 同士の2重結合でなく安定です。外観は白色個体です。

     テアフラビンは茶の葉を紅茶に加工する発酵の過程で、酵素による酸化を受けて生成します。
     以下にテアフラビンの分子構造を示します。



    図4-6において、OH基が9個もあり、親水性であることが容易に推定できます。青のマークをを付けた炭素同士の2重結合 は不安定要素で、5個あります。テアフラビンは赤い色を持ちます。

     酸化で発色する色素の酸化を促進する方法は2通りあります。
    第1の方法は草木に含まれる酸化酵素を利用する方法です。この場合、常温のまま草木を乾燥させずに細かく粉砕して、 空気と水に触れる状態で保存すると酸化が進行します。
     酸化酵素を利用した場合、100℃近傍まで加熱すると酸化酵素の効果が消滅して、酸化が停止します。
    第2の方法は溶液に消石灰等を混ぜて、アルカリ性にすると酸化が促進されます。この場合、クエン酸等の酸を混ぜ て中和すると酸化が停止します。







5章:草木染めの標準手順に行く。

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