7章:アポクロマートレンズの設計手順

    作成2019.10.01
  1. 光学ガラスの選定と屈折率の調査
     アクロマートレンズの設計において、光学ガラスの選定が最も重要作業となります。光学 ガラスの組合せが悪いと性能の良いレンズを設計で きません。ここでは、手順の説明ですので以下の光学ガラスを使用します。。

    -青波長μm緑波長μm赤波長μm
    光学ガラス0.486130.546070.65627
    S-FPL531.441951.439851.43733
    S-NBM511.623111.616691.60925
    S-BAH271.713511.705571.6965


  2. 焦点距離f=100mm、Φ20mmアポクロマートレンズの設計
    (1)シート「IN_FM2」のパラメータ設定
    *6章:アクロマートレンズの設計手順のシート「IN_FM2」と同一となります。

    (2)シート「IN_FM」のパラメータ設定
     以下のように設定します。
    No記号説明
    1Mp1処理モード(Mp=1入射位置を変数、Mp=2入射角度を変数)
    2NJ8変数範囲の分割数(±NJに分割する)
    3PR9位置変化範囲半径(mm)(Mp=1の時有効)
    4AR0角度変化範囲半径(rad)(Mp=2の時有効)
    5U00入射X方向角度(rad)(中心光線を決定)
    6V00入射Y方向角度(rad)(中心光線を決定)
    7X00入射X方向位置(mm)(中心光線を決定)
    8Y00入射Y方向位置(mm)(中心光線を決定)
    L面数 6
    波長数3
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00010000--111
    100400V-1.441951.439851.43733
    200200--1.623111.616691.60925
    300400--1.713511.705571.6965
    4009500--111
    500000--111
    *最初はレンズ面の曲率半径はわからないので、全て0を設定します。
    *逆方向後側焦点位置D(0)=100、 S-FPL53中心厚D(1)=4、 S-NBM51中心厚D(2)=2、 S-BAH27中心厚D(3)=4、正方向後側焦点位置D(4)=95、結像面D(5)=0とします。
    *最適化:条件:CaR(1)=Vとし、その他は空欄にします。(最初に焦点位置調整をします。)
    *屈折率にS-FPL53とS-NBM51とS-BAH27の値を設定します。
    (3)シート「操作」の「曲率半径最適化計算実行」ボタンを押します。
    (4)N次元Gauss-Newton法によるレンズ曲率(1/R)最適化計算結果が表示されます。
    NoEXaXsYaYs1/R(0)
    15.5843505.63148000
    21.8524801.86811000.01496
    30.6120400.6172000.01987
    40.205100.20683000.02147
    50.0738100.07443000.022
    60.0373100.03763000.02218
    70.0306900.03095000.02223
    80.0298700.03012000.02225
    90.0297700.030020.00000 0.00000 0.02226
    100.0297600.030010.00000 0.00000 0.02226
    *1/R(0)が求める曲率半径の逆数です。

    (5)シート「操作2」の「曲率曲率最適化コピー」ボタンを押します。
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00010000--111
    100.02226400V-1.441951.439851.43733
    200200V-1.623111.616691.60925
    300400--1.713511.705571.6965
    4009500--111
    500000--111
    *最適化:条件:CaR(0)=V、 CaR(1)=Vとし、その他は空欄にします。(2波長色補正をします。)
    (6)シート「操作」の「曲率半径最適化計算実行」ボタンを押します。
    (7)N次元Gauss-Newton法によるレンズ曲率(1/R)最適化計算結果が表示されます。
    NoEXaXsYaYs1/R(0)1/R(1)
    10.0297600.03001000.022260
    20.0249400.02515000.02454-0.00608
    30.0221200.0223000.02613-0.01029
    40.0196700.01984000.02747-0.01382
    50.0176500.0178000.02855-0.01665
    60.0164400.01658000.02928-0.01853
    70.0159300.01607000.0297-0.01963
    80.0157600.01589000.02994-0.02023
    90.015700.015840.00000 0.00000 0.03007 -0.02056
    100.0156900.015820.00000 0.00000 0.03014 -0.02073
    *1/R(0)、 1/R(1)が求める曲率半径の逆数です。

    (8)シート「操作2」の「曲率曲率最適化コピー」ボタンを押します。
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00010000--111
    100.03014400V-1.441951.439851.43733
    20-0.02073200V-1.623111.616691.60925
    300400--1.713511.705571.6965
    4009500V-111
    500000--111
    *最適化:条件:CaR(0)=V、 CaR(1)=V 、 CaR(4)=Vとし、その他は空欄にします。(球面収差補正をします。)
    (9)シート「操作」の「曲率半径最適化計算実行」ボタンを押します。
    (10)N次元Gauss-Newton法によるレンズ曲率(1/R)最適化計算結果が表示されます。
    NoEXaXsYaYs1/R(0)1/R(1)1/R(2)
    10.0156900.01582000.03014-0.020730
    20.0212400.02142000.02576-0.01989-0.00299
    30.014500.01463000.02336-0.02081-0.00491
    40.0071200.00718000.0221-0.02174-0.00602
    50.0029100.00293000.02153-0.02225-0.00654
    60.0012100.00122000.0213-0.02246-0.00675
    70.0007400.00074000.02122-0.02254-0.00682
    80.0006600.00066000.02119-0.02257-0.00685
    90.0006500.000660.00000 0.00000 0.02118 -0.02258 -0.00686
    100.0006500.000650.00000 0.00000 0.02118 -0.02258 -0.00686
    *1/R(0)、 1/R(1) 、 1/R(2)が求める曲率半径の逆数です。

    (11)シート「操作2」の「曲率曲率最適化コピー」ボタンを押します。
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00010000--111
    100.02118400V-1.441951.439851.43733
    20-0.02258200V-1.623111.616691.60925
    300400V-1.713511.705571.6965
    40-0.0068619500V-111
    500000--111
    *最適化:条件:CaR(1)=V、 CaR(2)=V 、 CaR(3)=V 、 CaR(4)=Vとし、その他は空欄にします。(3色補正をします。)
    (12)シート「操作」の「曲率半径最適化計算実行」ボタンを押します。
    (13)N次元Gauss-Newton法によるレンズ曲率(1/R)最適化計算結果が表示されます。
    NoEXaXsYaYs1/R(0)1/R(1)1/R(2)1/R(3)
    10.0006500.00065000.02118-0.022580-0.00686
    20.0006500.00066000.02139-0.022430.00076-0.00658
    30.0006500.00066000.0216-0.022290.0015-0.00631
    40.0006500.00065000.02179-0.022160.00224-0.00604
    50.0006400.00065000.02197-0.022040.00297-0.00579
    60.0006400.00064000.02215-0.021930.0037-0.00554
    70.0006400.00064000.02233-0.021830.00443-0.0053
    80.0006300.00064000.02249-0.021740.00515-0.00507
    90.0006300.000630.00000 0.00000 0.02265 -0.02166 0.00586 -0.00485
    100.0006200.000630.00000 0.00000 0.02280 -0.02158 0.00656 -0.00463
    *1/R(0)、 1/R(1) 、 1/R(2) 、 1/R(3)が求める曲率半径の逆数です。

    (14)シート「操作2」の「曲率曲率最適化コピー」ボタンを押します。
    (15)シート「IN_FM」をクリックして、曲率半径の逆数を確認します。
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00010000--111
    100.0228400V-1.441951.439851.43733
    20-0.02158200V-1.623111.616691.60925
    300.00656400V-1.713511.705571.6965
    40-0.004639500V-111
    500000--111
    (16)「焦点距離計算.xls」をダブルクリックで起動します。
    (17)シート「多面レンズ(緑) (5面)」をクリックします。
    (18)「光線光線追跡-3色A.xls」のシート「IN_FM」の曲率、位置、屈折率をレンズ計算条件入力表の曲率、位置、屈折率等を下記表のようにペーストします。
    No記号説明
    1Dia20レンズ直径(mm)
    2NJ5変数範囲の分割数
    3WL546.1設計波長(nm)
    4NUMB5レンズ面数
    面数 曲率 位置屈折率
    無次元(1/mm) (mm)無次元
    i1/R(i) D(i)N(i)
    0001
    10.022841.43985
    2-0.0215821.61669
    30.0065641.70557
    4-0.0046301
    (19)「多面レンズ計算実行」ボタンを押します。
    -平行光線正方向 正方向後側 正方向正方向逆方向逆方向後側逆方向逆方向
    -の半径焦点距離焦点距離波面収差出射角度焦点距離 焦点距離 波面収差出射角度
    NoH(mm)F(mm)Fb(mm)OL(λ)U(rad)F(mm)Fb(mm)OL(λ)U(rad)
    00.001100.201595.010200100.201598.934200
    12100.178295.0064-0.00070.02100.088598.7507-0.03360.02
    24100.109694.9969-0.01040.0499.748498.1985-0.5430.0401
    3699.999294.9872-0.0450.0699.177497.2722-2.80050.0605
    4899.853894.9877-0.10760.080298.369395.9625-9.08970.0814
    51099.68495.0148-0.14630.100597.314694.2563-22.98210.1029
    *近軸のH=0.001mmの値を使用するとします。
    *焦点距離f=100.20mm、正方向後側焦点距離=95.01mm、逆方向後側焦点距離=98.93mmです。
    *試行錯誤になりますが、正方向後側焦点距離=94.7mmの時、焦点距離f=100mmになります。
    *試行錯誤とは、正方向後側焦点距離の修正、「曲率半径最適化計算実行」、「曲率曲率最適化コピー」、「多面レンズ計算実行」の繰り返し のことです。
    (20) 「光線光線追跡-3色A.xls」のシート「IN_FM」の正方向後側焦点距離= 94.7mm、を下記のように修正します。
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00010000--111
    100.0223733400V-1.441951.439851.43733
    20-0.0297264200V-1.623111.616691.60925
    300.0432905400V-1.713511.705571.6965
    40-0.0023227194.700V-111
    500000--111
    (21) 「焦点距離計算.xls」のシート「多面レンズ(緑) (5面)」をクリックします。
    (22)「光線光線追跡-3色A.xls」のシート「IN_FM」の曲率、位置、屈折率をレンズ計算条件入力表の曲率、位置、屈折率等を下記表のようにペーストします。
    No記号説明
    1Dia20レンズ直径(mm)
    2NJ5変数範囲の分割数
    3WL546.1設計波長(nm)
    4NUMB5レンズ面数
    面数 曲率 位置屈折率
    無次元(1/mm) (mm)無次元
    i1/R(i) D(i)N(i)
    0001
    10.02237341.43985
    2-0.02972621.61669
    30.04329141.70557
    4-0.00232301
    (23)「多面レンズ計算実行」ボタンを押します。
    -平行光線正方向 正方向後側 正方向正方向逆方向逆方向後側逆方向逆方向
    -の半径焦点距離焦点距離波面収差出射角度焦点距離 焦点距離 波面収差出射角度
    NoH(mm)F(mm)Fb(mm)OL(λ)U(rad)F(mm)Fb(mm)OL(λ)U(rad)
    00.001100.002694.702500100.002698.866200
    1299.95494.702600.0299.801298.5604-0.05620.02
    2499.806194.70310.00030.040199.188197.6333-0.92010.0403
    3699.551894.70450.00250.060398.13596.0537-4.84040.0612
    4899.176294.70580.00990.080896.587893.7627-16.19780.0829
    51098.649194.69990.0150.101594.454290.6606-42.85020.1061
    *焦点距離f=100.00mm、正方向後側焦点距離=94.70mm、逆方向後側焦点距離=98.87mmです。
    (24) 「光線光線追跡-3色A.xls」のシート「IN_FM」の逆方向後側焦点距離= 98.87mm、を下記のように修正します。
    面数 面種類曲率 位置オフセットXオフセットY最適化最適化屈折率1屈折率2屈折率3
    無次元無次元(1/mm) (mm)(mm)(mm)条件レンズ番号486.1546.1656.3
    iM(i)1/R(i) D(i)Ox(i)Oy(i)CaR[i]CR[i]111
    00098.8700--111
    100.02237400V-1.441951.439851.43733
    20-0.02973200V-1.623111.616691.60925
    300.04329400V-1.713511.705571.6965
    40-0.0023294.700V-111
    500000--111
    *以上で焦点距離f=100mm、レンズ径Φ20mm(有効径Φ18mm)のアポクロマートレンズの基本設計は完了です。

  3. 焦点距離f=100mm、Φ20mmアポクロマートレンズの評価
    (1) 「光線光線追跡-3色A.xls」のシート「I操作」の「スポットダイアグラム計算実行」ボタンを押します。
    (2)シート「変換」をクリックすると下記のグラフが表示されます。



    *単位はmmで、スポット径は約2μm程度です。
    (3)シート「光線図」クリックすると下記のグラフが表示されます。



    (4)シート「球面レンズ作図(連動用」クリックします。
    *最大レンズ直径、レンズ直径、縁取り等は手動入力します。
    (5)「球面レンズ作図実行」ボタンを押すと以下の図が表示されます。



    (6) 「光線光線追跡-3色A.xls」のシート「I操作」の「波面収差計算実行」ボタンを押します。
    *波面収差計算結果が表示されます。
    *波長486nmのX方向を例にとると光線角度Uに対応した波面収差は
    U[0]X[NUMB-1]U[NUMB-1]AB
    00-0.091-0.054
    00-0.079-0.061
    00-0.068-0.058
    00.001-0.057-0.049
    00.001-0.045-0.035
    00.001-0.034-0.022
    00-0.023-0.01
    00-0.011-0.003
    0000
    000.011-0.003
    000.023-0.01
    0-0.0010.034-0.022
    0.000 -0.001 0.045 -0.035
    0-0.0010.057-0.049
    000.068-0.058
    000.079-0.061
    000.091-0.054
    *光線角度U=0.09radで-0.054λと0.25λ以内です。
    *この収差を分析すると
    0次0
    1次0
    2次-0.176
    3次0
    4次0.136
    5次0
    6次-0.015
    *2次収差(色焦点収差)と4次収差(球面収差)が大きいことがわかります。
    * 2次収差(色焦点収差)と4次収差(球面収差)の符号が逆のため、合成収差は小さくなります。


  4. アポクロマートレンズの設計のポイント
    (1)光学ガラス選定は非常に重要です。
    (2)曲率半径最適化は、 CaR(1)=V、 CaR(2)=V 、 CaR(4)=V、 CaR(3)=Vの順に行うと最適化の収束性が良いです。
    (3)3色色補正は微小な収差改善となりますので、 CaR(3)=Vを最後に行うのが良い。
    (4)正方向後側焦点距離の設定を変化させると焦点距離fの値が変化しますが、線形変化でないため、追い込みは試行錯誤になります。







8章:光学ガラスの組合せによる標準レンズの性能比較に行く。

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