2章:簿記の概要
- 何のために簿記が必要か?
何のためにこんなにわかりにくい簿記が必要なの?すなおな疑問ですが、ここまで目を通された方は、すでに十分理解なされているお方と思いますが、主な理由は以下の点があげられます。
- 第1の理由:日本国憲法により、全ての国民(法人も含む)法律の定める限度で納税義務をおっているわけですが、一方で、納税しなければならない税額を自分で確定できる権利を持っています。平たくいうと納税とは申告制度になっているのですね。
いいかえると「今年はこれだけの所得や相続があったので、これだけの税金を払います。」と決められたルールに従って申告する訳です。
税務署はその額が正しいかどうかをチェックするわけです。
この税額は収益(所得、相続、売上)そのものにかかる訳ではなく、利益(=収益-費用)にかかるようになっています。ところが、税務署といえど申告された費用が正当なものかどうかをチェックする手段がなければ、チェックできませんから、厳密な書式で提出された費用のみを認めている訳です。
簿記といっても、(1)現金式簡易簿記、(2)簡易簿記、(3)複式簿記等があり、一番有利なのが複式簿記です。という訳でほとんどの企業は複式簿記で運用しています。
ところでサラリーマンはどうかというと源泉徴集になっていて、自動的に給料から引かれています。必要経費と認められているのは保険等限られた項目のみのようです。
- 第2の理由:利益(=収益-費用)と資産(=負債+資本)の状態を正確に把握し、適正な経営を行うためです。
利益がでれば、一定率の納税を行った上でも、資本は増大し経営は安定しますが、利益がマイナスになれば、納税は免除となりますが負債が増大し、限度を超えれば経営は破たんします。
平たくいうと利益をだすことによりその利益を国家とその企業に分配することが適正な経営というわけですね。
- 利益(=収益-費用)と資産(=負債+資本)
簿記を理解するためには、利益と資産の意味を理解する必要があります。利益と資産というとなんとなくわかった気になりますが、正確に表現しようとすると結構難しいのです。
- 利益とは?
・利益=収益-費用ですから、単純に収益から費用を引いた金額といえます。
- 収益とは?
・売上:収益の代表は売上です。商品の販売による収益額をいいます。決して現金というわけではなく、商品を相手に渡し終わって、相手がこちらに支払い義務が発生した金額をさすわけです。相手が未払いの場合は「売り掛け」として処理されます。全てが現金取引の場合、比較的単純ですが、「約束手形」「小切手」「銀行振り込み」等もあるわけですから、結構複雑になります。
言い換えると、売上とは相手がこちらに支払い義務が発生した金額の総額です。必ずしも、現金、手形等の総額ではありません。
・受取利息:銀行預金の利息受取金額です。
・受取手数料:サービス提供の受取金額です。
・受取配当金:配当金の受取金額です。
・有価証券売却益:株式等の有価証券を売却し購入時との差額の利益です。(マイナスの場合は損失となります。)
・固定資産売却益:例えば機械装置を「簿価」を上回る金額で売却できた場合の差額の利益です。(一般的にはマイナスになることが多く、この場合損失となります。)
・雑収入:その他収益です。
(*サラリーマンは?)サラーマンは労働というサービスを行って、「給与」という「受取手数料」をいただいているのかな?一般的に「所得」といっていますが収益と同じ意味ですね。
- 費用とは?
費用というと何となくわかった気になりがちですが、ここで言う費用の意味は超難解です!!業種によっても異なりますが、多種多様の分類に別れており、最も理解しがたいのがこの分類です。
- 費用の注意点
・税法上の注意点:耐用年数が1年以上でかつ10万円以上のものは、全額費用となりません。かなりの機具類はこれに相当し、有形固定資産として登録し、税法に定められた耐用年数と償却率に応じて価値を減少させていきます。このような手続きを減価償却といい、減価償却によって計上される費用を減価償却費といいます。
従って、耐用年数が1年以上で10万円以上のものを購入する際は固定資産としての手続きをする必要があります。これを全額費用として落としてしまうと、帳簿上の利益が減り、また固定資産も減るため納める税金が減ってしまいまい、結果として脱税行為となります。よく注意しましょう!!
設計、ソフト、外形デザイン等の無形資産の購入これは結構ややこしい!!(どこまで資産価値があるかの判断が難しいでしょう。)
・分類上の注意点:耐用年数が1年以下の購入品で全額費用として落せる物でも、その費用の目的にあわないものに使用すると結果として費用の正確な把握ができなくなりますので「だめ」と言われることはよくあることです。これは予算管理上の問題だけですので費用の振り替え等の手続きをすべきでしょう。
- 費用の分類
費用の分類は業種によっても異なりますが、大きくは「製造原価」「販売費および一般管理費」「営業外・特別損益」に分類されます。
- 製造原価の分類
・材料費:製品の主要部分を構成する費用で原則変動費です。
・労務費:製造する人の賃金です。
.経費:材料費、労務費以外を全て経費と呼びます。上記「減価償却費」も経費です。従ってなんでもかんでも経費という言葉が飛び交っているわけですね。「経費」の種類については多種多様です。
- 販売費および一般管理費
・販売活動と通常の管理活動から生ずる費用のうち製造原価に属さないものをさします。
・退職金、法定福利費、福利厚生費、広告宣伝費等
- 営業外・特別損益
・営業外利益:営業活動以外によって生じた収益で当期に発生原因があるもの。
・営業外費用:営業活動以外によって生じ費用で当期に発生原因があるもの。
・特別利益:生じた収益で当期に発生原因が無いもの。
・特別損失:生じた損失で当期に発生原因が無いもの。
・営業活動以外の費用ですが法人税・住民税は費用に計上できません!!
- 資産(=負債+資本)とは?
この式に簿記のくせが良く現われています。簿記では一般的にマイマス(-)という数字を嫌っています。上記式を書き換えると
資産-負債=資本
となります。現金のような有益なものを「資産」と呼んでいます。逆に借金のようなマイマスの資産を「負債」と呼んで区別しています。(プラスとマイナスの符号を使えば、簿記の式はもっと簡潔になりますが、慣例となっていますのでしかたありません。)
- 資本とは?
資本は「資産-負債」であり、その会社の実質的な総資産とイコールとなります。
これは何を意味するのでしょうか?例えば株式会社を例に取りましょう。
資本の内訳は以下の通りです。
・資本金:株式発行価額の額面の全額が原則として資本金に組み入れられます。
・資本準備金:株式が額面より高く評価され、額面以上の払い込みがあった場合、額面との差額を資本準備金とします。
・利益準備金:商法の規定で資本金の4分の1に達するまで利益処支出金額(配当金、役員賞与など)の10分の1以上を積み立てることが義務づけられています。
・剰余金または欠損金:利益処分後の金額で剰余金がプラスの場合「剰余金」マイナスの場合「欠損金」これらは「積立金」「未処分利益」として記載されます。
上記の総額が「資産-負債」と一致するようになっているという意味です。
従って、資本=資本金という意味ではありません。資本金は株式の額面ですが本当の価値は資本(「資産-負債」)にあることをわすれてはいけません。(一概にはいえませんが、評価項目のひとつです。)
・複式簿記は利益(=収益-費用)と資産(=負債+資本)の状態を正確に把握する上で強力なツールです。道具を十分理解し、使いこなすことが重要です。
- 必要な帳簿類
正規の簿記の帳簿類は大きく「主要簿」「補助簿」「決算書」に分類されます。
- 主要簿
必ず必要な書類でこれに基づいて「賃借対照表」と「損益計算書」を作成する必要があります。
・仕訳帳:
簡易複式簿記ソフトのシート「総仕訳元帳」に相当する帳簿で全ての取引、資産の動きが記載された帳簿になっています。
・総勘定元帳:
勘定科目別に整理した帳簿で仕訳帳と比較すると分かりやすくなっています。簡易複式簿記ソフトで「勘定科目処理実行」ボタンを押した場合に「総仕訳元帳」から自動生成される勘定科目別のシートがこれに相当します。
- 補助簿
必要に応じて使う帳簿で必ずしも使う必要はありませんが「固定資産台帳」は必ずと言っていいほど使用されています。
・「現金出納帳」「売掛帳」「買掛帳」「手形記入帳」「固定資産台帳」等があります。
- 決算書
主要簿に基づいて計算される「賃借対照表」と「損益計算書」のことです。
・賃借対照表:
「資産=負債+資本」の内訳を表にまとめた物です。左に資産、右に負債と資本を書いて比較します。だから対照表というのかな?
簡易複式簿記ソフトのシート「残高資産表」の分類が「資産」の項目を左に転記、左には「負債」「資本」「利益(=収益-費用)」を記載します。
「資産=負債+資本」の式とちょっとちがっていますが利益は資本の内訳と解釈します。
・損益計算書:
収益、費用に関する勘定科目を集計し、収益と費用の差額に前期繰り越し利益を加えた金額を当期未処分利益にすると「損益計算書」ができあがります。(税金等の計算も必要です。)
帳簿は最終的に「賃借対照表」と「損益計算書」の形にまとめられ、関係各部署に報告される訳ですから経営成績はこの2つの決算書に凝縮されているのですね。
3章:さあ仕訳をしてみように行く。
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