16章:ダイオードの整流特性
我々は13章〜15章でp-n接合を有する半導体の平衡状態におけるキャリアーの密度分布やポテンシャル電位分布等を議論してきた。
ダイオードはp-n接合を有する半導体の代表例であり、これに外部電圧を加えると整流特性を示すことが一般的に知られている。ここでは、ダイオードの整流特性について議論したい。
しかし、13章〜15章で議論したような、精密なモデルでこれ以上の議論を進めるのは若干の無理が生じる。「10章:移動度μのモデルと実験式」を思い出していただきたい。半導体中の電流を決定する移動度μは純理論的には求まらないのである。
移動度μは実験的に決定しなければならない。従って、あまり複雑なモデルを仮定し理論式を導いたとしても、実験的に決定しなければならない定数が複雑となり、実用性が問題となる。
従って、ここではモデルを以下に述べるように単純化し、理論式を導く。導いた理論式は精密な物では無い。しかも導いた理論式には、いくつかの定数が含まれる。実際のダイオードの整流特性からこれらの定数を決定するならば、導いた理論式は実際のダイオードの整流特性と極めて近いものとなるであろう。
- 単純化されたダイオードのモデル
「15章:計算結果の検討」の図15-4は平衡状態のポテンシャル電位、フェルミ準位、自由電子の電位、正孔の電位を示している。図15-4はポテンシャル電位とフェルミ準位を一致させて表示している。これを単純化すると図16-1に示すようになる。
図16-1の状態はn型とp型のポテンシャル電位差と自由電子または正孔の濃度差による拡散がバランス状態で安定している。
ここで、n型半導体側に-V/2ボルト、p型半導体側に+V/2ボルトの電圧を印加した場合の変化を変化を検討してみたい。
電位というものは本来、相対的なものであり、絶対基準というものがはっきりしない。しかし、後で説明することになるが、基準の取り方で理論式の形が変わってしまうのである?
ここでは、n型半導体とp型半導体の中点、すなわち過剰ドナー濃度N=0の点を電位0とし、この過剰ドナー濃度N=0の点をフェルミ準位と一致させ、キャリアーの濃度計算を行っている。
これ以外に片側基準でも理論式の誘導は可能であるが理論式の形が変わってしまう。ここでは、n型半導体とp型半導体の中点での電位変化をさけるため、n型半導体側に-V/2ボルト、p型半導体側に+V/2ボルトの電圧を印加とした。
電圧印加状態のダイオードモデルを図16-2に示す。
図16-2に電圧印加時のダイオードのモデルを示す。n型半導体側には-V/2ボルトの電圧が印加され、フェルミ電位は+V/2ボルト上昇する?
なぜ?上昇するのか?フェルミ電位は基準電位ではないか!!電位は相対的なものである。実際には自由電子の電位が下がるのである。図16-1と図16-2は自由電子の電位と正孔の電位を固定して描いているだけなのでる。
P型半導体側には逆にV/2ボルトの電圧が印加される。
- 理論式を導く
我々は既に「13章:不均一材料」で静電ポテンシャルΦ(x)と自由電子の密度[no](x)、正孔の密度[po](x)の関係式(13-1)(13-2)を学んでいる。
従って、平衡状態のn型半導体、p型半導体の自由電子の密度をそれぞれ[nn],[np]とすると、下記の式が成立する。
[nn]=[ni]Exp(-q(Φc-Φv-Φ)/(2kT) )----(16-1)
[np]=[ni]Exp(-q(Φc-Φv+Φ)/(2kT) )----(16-2)
電圧印加時のn型半導体、p型半導体の自由電子の密度をそれぞれ[nn'],[np']とすると、下記の式が成立する。
[nn']=[ni]Exp(-q(Φc-Φv-Φ-V)/(2kT)) ----(16-3)
[np']=[ni]Exp(-q(Φc-Φv+Φ+V)/(2kT) )----(16-4)
自由電子の濃度差による拡散電流の拡散係数を[Dn]とすると、電圧印加時の拡散電流[In]は下記式で計算できる。
[In]=q[Dn](([nn']-[np'])-([nn]-[np])/L -----(16-5)
また、(16-2)式を(16-1)式で割って整理すると、下記関係式が得られる。
[np]=[nn]Exp(-qΦ/(kT)) -----(16-6)
(16-5)式に(16-1),(16-2),(16-2),(16-4),(16-6)式を代入して整理すると下記の関係式が得られる。
[In]=[nn](q[Dn]/L){(Exp(qV/(2kT))-1)-Exp(-qΦ/(kT))Exp(-qV/(2kT))-1)} ----(16-7)
正孔の場合も上記の計算と同様にして求めることができる。正孔の電流を[Ip]、拡散係数を[Dp]とすると
[Ip]=[pn](q[Dp]/L){(Exp(qV/(2kT))-1)-Exp(-qΦ/(kT))Exp(-qV/(2kT))-1)} ----(16-8)
従って、全電流(I)は
I=[In]+[Ip] ----(16-9)
定数項を整理するため
[Is]=([nn][Dn]+[pn][Dp])q/L ---(16-10)
として整理すると、
I=[Is]{(Exp(qV/(2kT))-1)-Exp(-qΦ/(kT))Exp(-qV/(2kT))-1)} ----(16-11)
(16-11)式がダイオードの電圧Vと電流(I)の関係を表わす式である。
しかし、困ったことに(16-11)式はこれまでの教科書に書かれている式とは一致しない。多くの本で紹介されている式は下記の(16-12)式の通りである。
I=[Is]{Exp(qV/(kT))-1} ----(16-12)
(16-12)式はモデルを図16-2のように基準電位をセンター振り分けにしないで片側基準にすると導きだすことができる。
では、(16-11)式と(16-12)式ではどちらが正しいのであろうか?
まず、(16-11)式のn型半導体側とp型半導体側の電位差Φを無限大にすると(16-11)式は
I=[Is]{Exp(qV/(2kT))-1} ----(16-13)
となり、(16-12)式と近いものになる。しかし(kT)と(2kT)の差が残り、完全には一致しない。
そこで、私はダイオードの電圧Vと電流(I)の関係を表わす式として下記の式を提唱する。
(16-14)式において
[Is],A,Φは実験的に決定すべき定数であり、それぞれの単位はアンペア(A)、無次元数、ボルト(V)の単位を持つ。
qは電子電荷であり1.6E-19(C)、kはボルツマン定数であり1.38E-23(J/deg)、Tは絶対温度300°K、Vは印加電圧(V)、Iは電流(A)ある。
- (16-12)式と(16-14)式の比較
我々はダイオードの特性を表わす式として(16-12)式と(16-14)式の2つの式を得てしまった。この2つの式の違いを検討してみよう。
まず、(16-12)式で我々が自由に決定できる定数は[Is]のみである。[Is]は逆方向印加時の飽和電流を意味している。仮に定数[Is]を下記のように決定する。
[Is]=1 (mA)
次に(16-14)式においては、定数AとΦの値を決定しなければならない。
(16-12)式と(16-14)式の比較から定数Aは
A=1
Φはn型半導体とp型半導体の電位差であり、逆方向印加時の耐圧を表わしている。定数Φは
Φ=0.3 (V)
以上の条件での(16-12)式と(16-14)式の計算結果のグラフを図16-3に示す。
図16-3から明らかなように逆方向印加時の耐圧0.3(V)以上で(16-12)式と(16-14)式は良く一致している。しかし、逆方向印加時の耐圧0.3(V)以下の領域では(16-14)式は急激に電流が増加するのに対し、(16-12)式は変化しない。
我々は経験的ではあるが、逆方向印加時の耐圧0.3(V)以下の領域で急激に電流が増加する現象を確認しており、これをブレイクダウンまたはツェナー現象と呼んでいる。従って、(16-14)式の方がより実際の特性を近似しているといえる。また、(16-14)式によれば、逆方向印加時の耐圧はn型とp型のポテンシャル差によりもので不純物濃度差を大きくすれば、逆方向印加時の耐圧が大きくなることを示している。
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