8章:理論式と実験式の整合

 我々は、難解な理論を展開し、ついに電子と正孔の濃度を決定する関係式を得た。しかし、式の中に実験定数が含まれており、実験式との整合が不可欠である。

  1.  理論式と実験式の比較
     真性半導体の自由電子、または正孔の濃度[ni]を与える式(7-9)を実験式(8-1)と比較してみよう。
     理論式と実験式の定数を比較した結果を表8-1に示す。


    表8-1 理論式と実験式の定数比較
    名称記号単位計算式
    ボルツマン定数kJ/deg1.38E-23 
    電子静止質量mkg9.11E-31 
    電子電荷qC1.6E-19 
    実験式定数AAdeg^(-3/2) m^(-3)3.88E+22 
    実験式定数BBdeg7000 
    濃度空間定数β(Js)^(-3)8.704E+101A*POW(m*k,-3/2)
    禁制帯幅Ec-EvJ1.932E-19B*2*k
    禁制帯電位ΦV1.2075(Ec-Ev)/q
    *1:POW(X,k)はXのk乗を意味する。

     表8-1 理論式と実験式の定数比較に示すように実験式定数AとBから、理論式の濃度空間定数βと禁制帯幅(Ec-Ev)を決定できる。
     濃度空間定数βの単位は(Js)^(-3)となり値は8.704E+101と大きい。禁制帯幅(Ec-Ev)の単位はJとなり値は1.932E-19となる。
     禁制帯幅(Ec-Ev)を電子電荷qで割ると禁制帯電位Φの値1.2075Vをえることができる。
     なお、真性半導体においては、フェルミ準位Efは禁制帯幅(Ec-Ev)の中点となる。

     実験結果を上記の理論式の定数に変換することにより、我々は、7章:不純物濃度と[po][no]積で導いた数々の式を適用可能となる。
     従って、我々は、真性半導体に不純物をドープした場合の自由電子、または正孔の濃度を知ることができる。さらには、フェルミ準位を基準とした自由電子となるエネルギー(Ec)と荷電子帯のエネルギー(Ev)の値を知ることが可能となるのである。
     なお、エネルギーを電子電荷qで割ると電位Φの値に変換できる。エネルギーや電位は計算式の中では必ず相対値を取る。エネルギーや電位の基準をどこにとるかという問題が残るが、実用的にはフェルミ準位を零の基準にして問題はない。

  2.  理論式定数の定義方法による差の検討
     真性半導体の自由電子、または正孔の濃度[ni]を与える式(7-9)は式の展開の過程で定数の計算を一部省略した。
     省略無しの場合の正しい計算式を下記(8-2)式に示す。

     実験式(8-1)と省略無しの場合の正しい計算式(8-2)式を比較した場合の、定数の計算結果を下記表8-2に示す。

    表8-2 省略無しの場合の計算式(8-2)での定数の計算結果
    名称記号単位計算式
    プランク定数hJs6.62E-34 
    電子の箱定数[βv]無次元16.05 
     表8-2において電子の箱定数[βv]の単位は無次元で値は16.05となる。値が整数の16であれば、定数としてはなんとも美しい。もしかして、粒子の波動の波長のx,y,z方向の積で定義された体積の中にはいる電子の数は整数となるのでは?
     残念ながら、この仮定は正しくない。ちなみにゲルマニュウムの実験値(実験式定数A=1.76E+22)で計算した電子の箱定数[βv]=7.28となるのである。
     いずれにしても、理論式を実験値に合わせるためにはどこかに補正用の定数をいれる必要がある。

     実用的には真性半導体の自由電子、または正孔の濃度[ni]を与える式(7-9)で問題はない。

     
  3. 9章:緩和時間τと移動度μに行く。
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