9章:緩和時間τと移動度μ

 おめでとう!! 我々は、難解な理論の山場すでにを乗り切っている。しかし、半導体の特性を理解するためには、まだ数多くの検討項目がのこされている。
 9章では緩和時間τと移動度μの関係について検討したい。
  1.  一定電界Eにおける自由電子の運動モデル
     半導体中の自由電子の数は極めて多く、自由電子は運動中に結晶を構成する原子と衝突し、自由電子を個々にみれば異なる運動をしている。
     しかし、自由電子の運動を個々に解析するのは、膨大なものになり、実用的な解析とはなりえない。従って、我々が論じるのは自由電子運動を平均した量を取り扱う。微視的にはばらばらの運動であっても巨視的には自由電子の平均運動量が支配的となる。
     上記仮定の元に一定電界Eにおける自由電子の運動モデルを解析する。かなり、単純化された、運動モデルであり、厳密性には欠ける。従って、全ての定数を純理論的に導きだすのは極めて困難であり、理論式と実験式の整合が必要で、実験的に定数を決定する必要がある。



     図9-1の一定電界Eにおける自由電子の運動モデルから下記の式が成立する。


     (9-1)式に(9-2)式を代入し、定数B,Cを決定すると
      B=-R/m ----(9-3)
      C=-qE/R ---(9-4)
     定数Aを決定するため、t=0での初速度をv=[vo]とすると
      A=[vo]+qE/R ---(9-5)
    となる。(9-2)式に(9-3)(9-4)(9-5)式を代入すると

     (9-6)式において緩和時間τは
      τ=m/R ----(9-7)
     で定義される量であり、単位は(s)、また電子の速度が1→EXP(-1)まで減衰する時間を表している。
     移動度μは
      μ=q/R ---(9-8)
     で定義される量であり、単位は(m^2/(Vs))となる。(9-6)式においてt=∞とするならば、
      v=-μE ---(9-9)
     となり、定常状態における電子の速度を与える。
     (9-6)式で計算を実行するためには、τ=m/R、μ=q/Rで与えられる定数の値を知る必要がある。しかし、固体の半導体中を移動する電子の平均質量は電子の静止質量mと同じである保証はなく、さらには平均抵抗Rの値はわかっていない。
     我々は実験的にこれらの定数を決定する必要がある。これまで自由電子を例にとって説明してきたが正孔についても全く同一の理論が成立する。
     我々が値を決定しなければならない定数は以下の通りである。

    表9-1 実験的に決定する定数
    項目記号単位
    自由電子の実効質量[me*]kg
    正孔の実効質量[mh*]kg
    自由電子の移動度[μe]m^2/(Vs)
    正孔の移動度[μe]m^2/(Vs)
        
     
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